キメラアントには、人間だったころの記憶を持つ個体がいます。残っていたのは知識でも技術でもなく、特定の誰かへ向いた感情でした。
コルト・ウェルフィン・イカルゴの3人を、同じ条件で比べます。使う条件は3つ。何を覚えていたか、その記憶が行動をどう変えたか、蟻の群れをどう降りたか。
比べて分かったのは、残り方を決めているのが記憶の量ではないことです。どこへ向いた記憶かで割れている。
※ネタバレ注意。キメラアント編の終盤と、生き残った個体のその後まで触れます。
キメラアントに人間の記憶が残る仕組み
キメラアントの女王は、摂食交配という産み方をします。食べた生き物の特徴が、次に産む個体へ反映される仕組み(→ メルエムはなぜ最強で生まれた?)。
反映されるのは見た目や習性だけではない。食べられた生き物の記憶がそのまま残る個体もいます。そう言ったのは護衛軍のピトーとプフ。精神力の強い者ほど過去の記憶が残る、という見立てです。
ただし、そうなる個体は多くない。女王は何百という人間を食べたが、前世を持って生まれ変わった者はわずか。のちにコアラがそう語っています。
しかも2人は、記憶そのものより厄介なのは感情との結びつきのほうだ、とまで踏み込んだ。だから記憶と感情をつなぐ部分を壊しにかかっている。残ると面倒なのは知識ではなく感情のほう。蟻の側もそれを分かっていたわけです。
キメラアント3人の記憶を3つの条件で比べる
| キメラアント | 覚えていたもの | 行動への表れ方 | 蟻の群れをどう降りたか |
|---|---|---|---|
| コルト | 妹レイナへの気づかい | 女王が遺した子に妹の名をつけ、守り育てた | 人間側へ投降した |
| ウェルフィン | ジャイロという存在 | 思い出したあと、ジャイロを捜す旅に出た | 王を敵だと言い切って離脱した |
| イカルゴ | ジャイロ一味の仲間だった記憶 | 昔の仲間ではなく、キルアへの恩で動いた | 討伐隊の一員になった |
3人とも、最後は蟻の群れから降りている。ここには差が出ませんでした。
差がはっきり出たのは、覚えていた中身のほうです。3人とも「人」だった。行動への表れ方も、3人で効き方がずれている。
残ったのは量ではなく向き先|コルトの場合
普通に考えれば、残りやすい記憶は情報のはずです。言葉、地名、戦い方、住んでいた場所。量の多い記憶ほど残りそうに思える。
作中で実際に残っていたのは、その逆側でした。3人が持ち越したのは、誰かに向けた感情のほうです。
コルトが分かりやすい。人間だったころの名前はクルトで、9歳の少年でした。当時の記憶はほとんど残っていない。それでも、4歳下の妹レイナを気づかう心だけが残った。
名前も暮らしも消えたのに、妹に向いていた部分だけが消えなかった。護衛軍2人の見立てが説明しているのは、どれだけ残るかまでです。どこへ向いた記憶が残るかまでは説明していない。
コルトに残った量はごくわずか。その少ない中身が、妹に向いた部分だった。量ではなく向き先のほうに、偏りが出ています。
ウェルフィンの記憶は動機を書き換えた
ウェルフィンの人間時代の名前はザイカハル。NGLでジャイロの下にいた男だ。
イカルゴに追い詰められて口を割ったとき、出てきたのは幼いころの記憶でした。実の父に殺されかけ、助けてくれたのは血のつながらない弟だった。
そこまで思い出したところで、ウェルフィンは気づく。その相手が、ジャイロにすげー似ていた。父でも血縁でもなく、あとから結んだ相手のほうが残っていた。
残ったものが行動へどう出たかは、順番を追うとはっきりします。ジャイロを思い出すまでのウェルフィンは、裏の王の座を狙って動いていた。
それが記憶を取り戻した瞬間に入れ替わる。もう一度会いてぇな、と言った。キメラアント編の最後、ウェルフィンはその一言のとおり、ジャイロを捜しに流星街へ向かいます。
記憶が動機を書き換えている。コルトは記憶を、守る相手という形で持ち越した。対してウェルフィンは、思い出したあとで行き先が変わった。同じ「特定の誰か」でも、効き方が違う。
ジャイロという人物そのものは ジャイロの正体はメルエムの裏返し に整理した。ウェルフィンの能力が尋問に向いている点は ウェルフィンの念能力ミサイルマンは尋問の道具 で扱っています。
イカルゴは新しい関係のほうで動いた
3人目のイカルゴは、少し置かれ方が違う。
イカルゴとザイカハルは、人間だったころ仲間同士でした。つまりウェルフィンとの関係は、蟻になる前から続いているもの。
ただ、イカルゴを動かしたのは昔の仲間ではない。キルアに命を助けられ、そこから恩を返す形で人間側に立った。持ち越した関係より、蟻になってから結んだ関係のほうが強く出ている。
ここが3人の中で唯一、過去だけでは説明がつかない部分だ。記憶が行動を決めるなら、彼はウェルフィンの側に付いていてもおかしくなかった。イカルゴの能力そのものは イカルゴの念能力は死体を借りる にまとめています。
カイトだけは同じ条件に乗らない
同じ「人間の記憶を持つキメラアント」でも、カイトは事情が違います。
そもそもカイトは女王に食べられていない。遺体はピトーが持ち去っていて、摂食交配で生まれた個体ではないからです。自我が宿ったのは、女王が最後に遺した子のほう。なぜ宿ったのかは作中で確定していない。
ジンはこう言い残しているだけです。カイトの念能力には、死んでたまるかと本気で思わないと出ない番号がある。あいつが生きてんなら多分そういう事だ、と。
生まれ方そのものが3人と違う。同じ人物と呼べるかどうかは カイトの転生は同じ人物なのか で別に考えています。
なぜ誰かへの感情だけが残るのか
残ったものが全部「誰か」だったのは、偶然にしては寄りすぎている。
冨樫は、キメラアントを「人間を食べて人間でなくなる存在」として出しました。その設定で怖いのは、知識や技術が消えることではない。関係が消えることのほうです。
3人に残ったものが、そろって「特定の誰か」だった。これは偶然じゃない。残ってはいけないものが残ったときに、いちばん話が動くからだと思う。
妹の名を子に付けたコルト、王を敵だと言い切って流星街へ向かったウェルフィン。群れと正面からぶつかったのはウェルフィンのほう。コルトは女王に忠実なまま投降した側です。それでも2人とも、蟻として与えられた役目どおりには動かなかった。
もし残ったのが戦い方や言語だけなら、彼らは優秀な兵隊のままでいられた。人へ向いた記憶だったからこそ、兵隊のままではいられなくなる。
生き残った個体がその後どうなったかは キメラアントは絶滅していない に整理しました。王が最後に選んだ相手も、結局は特定の1人です(→ コムギはメルエムと何が違ったか)。
まとめ|キメラアントに残った記憶
- コルト・ウェルフィン・イカルゴの3人が持ち越したのは、知識でも技術でもなく特定の誰かへの感情だった
- コルトは人間時代の記憶をほとんど失いながら、妹レイナを気づかう心だけを残している
- ウェルフィンが追い詰められて思い出したジャイロは、そのまま最後の行き先になった
- イカルゴだけは過去の関係より、蟻になってから結んだ関係のほうが強く出ている
- カイトはそもそも女王に食べられておらず、生まれ方が違うので同じ条件では読めない
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- イカルゴの念能力は死体を借りる — 人間側に回った蟻の戦い方
- カイトの転生は同じ人物なのか — 食べられずに生まれ直した個体
- キメラアントは絶滅していない — 残った個体のその後
- メルエムはなぜ最強で生まれた? — 摂食交配の仕組み


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