キメラアントの王メルエムは、生まれた時点で作中最強クラス。その王が、盲目の少女コムギに軍儀で勝てなかった。何十局打っても、一度も勝てていません。
理由を「コムギも念能力者だから」で片づけると、面白い部分が抜け落ちる。2人を同じ基準で比べると、差が出るのは能力ではない。
何を差し出したか。相手を何だと思っていたか。この2点です。
比べる基準は次の4つ。
- 力の出どころ
- 差し出したもの
- 負けへの態度
- 相手の見方
※キメラアント編の終盤に触れます。未読の方は注意してください。
コムギとメルエムに共通するのは「一つに全部を注いだ」こと
まず共通点。2人とも、一つのことに全部を注いだ存在です。
メルエムは、女王が大量の獲物を取り込んで身ごもった王。生まれた瞬間から別格の力を持っていた。
コムギは東ゴルトー出身の盲目の少女で、軍儀の世界チャンピオン。生活のほとんどを軍儀に費やしてきた打ち手です。
似た者どうしに見える。ただ、注ぎ方の中身がまるで違います。
4つの基準でメルエムとコムギを突き合わせる
| 基準 | メルエム | コムギ |
|---|---|---|
| 力の出どころ | 生まれた時点で備わっていた | 軍儀だけに時間を注ぎ続けた |
| 差し出したもの | 差し出すものがない | 負ければ自害するという誓い |
| 負けへの態度 | 認められず何度でも挑む | 負ければ死ぬ前提で打つ |
| 相手の見方 | 当初は取るに足らない人間 | 盤を挟めば一人の打ち手 |
似ているのは、一つに全部を注いだという力の出どころ。差がはっきり出たのは「差し出したもの」と「相手の見方」の2つです。
「負けへの態度」にも差はあります。ただしこれは、差し出したものの裏返し。負ければ死ぬと決めているコムギは、1局ごとに全部を出し切る。失うもののないメルエムは、負けても次があると思って何度でも挑めた。
差が出たのは、何を差し出したか
メルエムの強くなり方は、外から足していく形です。獲物、とりわけ念能力者を食べて、そのオーラごと自分のものにする。王がどう作られた存在なのかはメルエムの進化で扱いました。
奪えば奪うほど強くなる。逆に言えば、彼自身は何も失っていない。
コムギは逆です。プロの棋士を目指すと決めた日から、軍儀で負けたら自ら死ぬと誓っていた。1局ごとに命が乗った状態で、ずっと打ち続けている。
差が表に出たのが、賭けをめぐる場面。メルエムはコムギに、負けたら左腕をもらうと持ちかけました。返ってきたのは、腕ではなく命を賭けるという答え。いつも自分が賭けているものではだめか、と聞き返した。
自分の提案よりはるかに重いものが、すでに置かれていた。「どうやら覚悟が足りなかったのは余の方だ」。メルエムは賭けを取り下げ、その場で自分の左腕をもぎ取ります。
ここで起きているのは、力比べではありません。差し出しているものの重さで、王が負けている。念の言葉で言えば、コムギがやっていたことは制約と誓約そのもの。負ければ死ぬという縛りを自分に課し、その分だけ盤上に力を出していた。
もう一つの差は、相手を何だと思っていたか
メルエムは当初、人間を格下として扱っていました。コムギも、軍儀の相手として呼び出しただけの存在。
コムギの側は違います。相手が総帥だとは分かっていて、丁重に挨拶もする。
ただ、その姿を目にしてはいない。周囲の人間を怯ませる王の見た目も、彼女には映っていない。盤を挟んでしまえば、向こうにいるのは一人の打ち手でした。
この食い違いが、勝負の質を変えています。メルエムは「格下に負けるはずがない」という前提から入った。コムギは肩書きに影響されないまま打っていた。
しかも軍儀は、体格も腕力も関係ない盤上の競技。メルエムが持っている強さは、盤の上ではほとんど価値を持ちません。
負けを重ねるうちに、メルエムの態度は変わっていきます。相手を人間として認め、最後には自分の名前を明かした。この変化の起点も、勝てなかった経験にあると俺は考えています。
コムギの強さは念能力なのか
コムギは念能力者なのか。ここは本編でもはっきりしません。
対局に入ったコムギは、目が見えないまま両目を見開き、まとう空気が一変する。ファンの間では、念のオーラだという見方が多い描写です。ただ、本編で能力だと明言された場面はない。
本編の外には材料が一つある。「冨樫義博展 -PUZZLE-」で公開された念能力の設定資料です。ここでコムギは強化系とされ、修練度は「天賦」と書かれている。
描写とは出どころが違う資料なので、本編でこの設定が確定したわけではありません。
そのうえで、俺は「念かどうか」が勝敗の答えにならないと考えています。系統が分かったところで、なぜ王に勝てるのかは説明できない。強化系は他にいくらでもいて、その全員が軍儀でコムギに勝てるわけではないからです。
取り込む王と、絞り込む少女
2人の違いを一言でまとめると、方向が逆です。メルエムは外から取り込んで足していく。強さの範囲を広げ続け、あらゆる分野で上に立とうとした。
範囲が広いぶん、一つの分野に注ぎ込める密度は下がる。コムギは軍儀の一点に自分を全部置いています。日常生活もおぼつかず、盤の外では頼りない。それでも範囲の狭さと引き換えに、密度で王を上回りました。
ハンターハンターの念は、絞るほど強くなる仕組みでできています。系統を一つに寄せ、制約を課し、使える幅を狭めるほど出力が上がる。コムギは念を習っていない。それなのに、念の理屈にいちばん素直に沿った強くなり方をしている。
だから王が軍儀で勝てなかったのは、才能の差でも能力の差でもない。生き方の設計が、軍儀という一点ではコムギのほうが理にかなっていた。そう読めます。
まとめ|コムギとメルエムの差はどこにあったか
- 2人とも一つのことに全部を注いだ点は共通。差が出たのは「差し出したもの」と「相手の見方」の2つ
- コムギは負ければ自害するという誓いを立てて打っていた。念を習っていないのに、制約と誓約と同じことをしている
- メルエムは獲物を食べて強くなる形で、自分が失うものがなかった。賭けの場面で覚悟の差が表に出る
- コムギは相手が総帥だと分かっていても、その姿を目にしていない。盤を挟めば一人の打ち手として向き合えた
- コムギが強化系とされるのは「冨樫義博展 -PUZZLE-」の設定資料で、本編では念能力者だと明言されていない
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