暗黒大陸への渡航は人類最大の禁忌。ところがこの禁止で足止めされているのは、個人の渡航だけです。
200年以上前、V5(近代5大陸)が不可侵条約を結んだ。それ以来ずっと禁じられている。それでも渡航の挑戦は、記録に残っているだけで149回。禁じたV5自身が、条約のあとに5国とも調査団を送り出している。
※暗黒大陸編・王位継承戦編の展開に触れます(単行本既刊分)。
暗黒大陸への渡航を3通りに分ける
分ける基準は「誰の名義で行ったか」。原作にこの区分が出てくるわけではなく、当サイトの整理です。
| # | 行き方 | 用意したのは | 国の名前が出るか | 例 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 条約の裏 | V5の各国 | 出ない | ベゲロセ連合国などの調査団 |
| 2 | 個人 | 本人 | 国が関わらない | ネテロのお忍び渡航 |
| 3 | 国家事業 | カキン帝国 | 出る | ブラックホエール号 |
条約が縛れるのは、国どうしの約束だけ。ところが実際に止まったのは、その国ではありませんでした。
V5の5国は条約の裏から渡っている
1つ目の行き方を取ったのがV5です。ベゲロセ連合国・サヘルタ合衆国・オチマ連邦・ミンボ共和国・クカンユ王国。この5国が、条約を結んだあとに調査団を出した。
狙った品は国ごとに違う。ベゲロセは無尽石、サヘルタは万病に効く香草、オチマはニトロ米。ミンボは三原水で、クカンユは錬金植物メタリオンでした。
送り出し方も表からではない。政治の場で人を集め、秘密裏に向かわせている。
ベゲロセは約1000人を送り、帰ったのは7人。オチマも1000人ほどを送って11人。どの国も目的の品を手元に残せず、人間の世界には五大厄災だけが残りました(→ 暗黒大陸の五大厄災は“恵み”が罠)。
2つ目の行き方に当たるのがネテロです。若いころ、ジグ=ゾルディック、リンネ=オードブルと共にお忍びで大陸を往復している。国を代表した調査ではない。記録にも残らない遠出でした。
3つ目がカキン帝国。ブラックホエール号の収容人数は20万人。国王は新大陸の開拓者として名前を残そうとしています(→ ブラックホエール号の内部は5階層)。
隠すか、名前を出すか。3つの違いはそこだけだ。行ったかどうかでは分かれていません。
個人だけが手続きで足止めされる
禁止がまったく働いていないわけでもない。効く相手が国ではないだけです。
個人が正規の手続きで渡ろうとすると、まず外務省の特別渡航課(トッコー)に行き着く。課長に会うには、自国の国会議員の紹介状が3枚。そこで契約と説明に1か月拘束され、5か国ぶんを回るとおよそ半年。
その間ずっと莫大な費用がかかる。そこからV5直轄の渡航許可庁へ申請する。通ったとしても、加われるのは自由行動のない監視付きのツアーです。
さらに、全大陸の特別渡航課を束ねる特務課がある。その仕事は、誰も新世界へ行かせないこと。
国は条約の裏を通り抜け、個人は紹介状3枚と半年の手続きで止まる。同じ禁止が、相手によってまるで違う強さで働いています。
ビヨンドはどの行き方にも当てはまらない
3通りのどれで数えても、ビヨンド=ネテロは行き場がない。
約50年前、彼はクカンユ王国の探検隊に専門家として同行している。この時点では1つ目、条約の裏から渡った1人です。
ところが今のビヨンドは、3つ目を作った当人になっている。カキン国王と組み、暗黒大陸探検隊の総責任者に指名された。条約が届かない国を使って、公然と船を出す形を用意した人物です(→ ビヨンドとネテロが暗黒大陸に求めたもの)。
同じ1人が、隠して渡る立場と、名前を出して渡る立場の両方に立っている。
なぜ当てはまらないのか。ビヨンドは渡航の名義を、1度も自分にしていないからです。1度目はクカンユの名前、2度目はカキン国王の名前で向かっている。名義を借りてしまえば、紹介状も半年の手続きも費用も関係がない。
紹介状3枚の足止めが効くのは、個人が個人として申請したときだけ。ビヨンドはそこを避け続けている。
禁じる側が、同じ船の中にいる
もう1つ当てはまらないのがハンター協会です。
協会は禁じる側でした。ネテロは自分が渡航したあと、暗黒大陸をハンター協会の禁忌に定めている。行った本人が、あとから行くなと決めた形だ。
その協会が今、ブラックホエール号に乗っています。V5がビヨンドの監視役を協会に頼んだからだ。十二支んとプロハンターが同行し、ビヨンド本人は拘束されたまま船室にいる。
3通りの分け方が見ているのは、渡る側だけ。禁じる側がその中に混ざる形は、この基準では説明できません。
ただし制度の想定外というわけでもない。特務課の仕事には、どうしても止まらない相手に首輪を付けることまで含まれていました。拘束と監視を付けて行かせるのは、最初から用意されていた最後の手段そのものです。
船の第1層にV5の政財界の要人が席を持っているのも同じだ。協会は監視として、V5は分け前を受け取る立場として、どちらも船の中にいる。
禁じる目的は2つあり、働いているのは片方だけ
暗黒大陸を禁じる理由は、原作で2つ挙げられています。どこかの国の抜け駆けを許さないため。そして厄災によって人類が滅びないようにするため。
3通りの行き方と2つの当てはまらない例を並べると、片方だけが働いているのが分かる。
滅亡を防ぐ目的は、そもそも守れていません。五大厄災は全部が人間の世界に入ってきています。しかも運び込んだのはV5自身の調査団。いちばん厄災を持ち込んだのは、禁じた5国だ。
抜け駆けを許さない目的は、逆にきちんと働いている。個人は紹介状と費用と監視で止まる。カキンに対しても、V5が最後に確保したのはこれだけでした。
止める手が尽きたあと、V5はカキンを迎えてV6にしています。条件は、持ち帰るリターンを6等分にすること。あわせて、勝手に情報を公開しないという約束もさせている。
6等分しても、入ってくる厄災は1つも減りません。減るのは、カキンが1国で総取りするはずだった取り分だけだ。
この禁止が実際に守ってきたのは、人類の安全ではなく抜け駆けの防止。俺はそう読んでいます。だから国が裏から渡るのは黙認され、名前を出して総取りしようとした国だけが問題になった。
冨樫がうまいのは、禁じる側を潔白にしなかったところだと思う。V5は隠して渡り、カキンは名前を出して渡る。どちらも欲で動いています。
その1点が分かると、暗黒大陸の見え方が変わる。行ってはいけない場所から、取り合いになっている場所へ。
読者が先に覚えるのは前の姿。それがあとから、後ろの姿に上書きされる。だから王位継承戦は、船の中で堂々と進んでいます(→ 王位継承戦で王子は自分では戦えない)。
まとめ|暗黒大陸の渡航禁止が止めているもの
- 渡航は名義で3通りに分かれる。条約の裏・個人・国家事業
- 条約を結んだV5自身が、その裏から5国とも調査団を送っていた
- 足止めされているのは個人で、紹介状3枚と半年がかりの手続きが要る
- ビヨンドは渡航の名義を1度も自分にしておらず、どの行き方にも当てはまらない
- 禁じる理由は2つあるのに、実際に働いているのは抜け駆けの防止だけ
禁忌として置かれているのは大陸そのものではない。そこへ最初に手を伸ばす順番です。
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