警察も裁判所もあるのに、作中の大きな事件はそこへ持ち込まれません。最後まで追い切っているのは、途中で降りる理由を持てない人だけです。
追う理由が外から来ている人は、その理由が消えた時点で降りられる。マフィアもゾルディック家も、実際に降りました。
冨樫は治安の制度をきちんと置いたうえで、事件だけをそこから外している。そう読める根拠を場面ごとに確かめます。
※ハンター試験編・ヨークシン編・キメラアント編・王位継承戦編の展開に触れます。扱うのは単行本既刊分(〜39巻)まで。
警察も裁判所もハンターハンターの原作に出てくる
取り締まる側は、船と街と刑務所に分かれて出てきます。
ブラックホエール号の船内には中央警察署と中央裁判所があり、国王軍支部も置かれている。行方不明だったフウゲツが見つかったとき、事情聴取が行われたのもこの中央警察署でした。
ネット上の犯罪にも担当がいる。ネットポリスやハッカーハンターを敵に回すと仕事がやりにくくなる。ミルキがそういう趣旨のことを口にしています。
裁いて閉じ込める仕組みもある。ハンター試験のトリックタワーで試練官を務めたのは長期刑の囚人たちだ。懲役199年の強盗殺人犯、懲役968年の大量殺人犯として紹介されている。ザバン市犯罪史上最悪、という言い方も出てきます。
警察・裁判所・刑務所・ネット犯罪の担当。そろってはいるのに、使われる場面がひどく偏っている。
大きな事件5件のうち、4件は制度の外から追われた
作中の大きな事件について、追いかけた側を並べます。
| 事件 | 追いかけたのは誰か | 追う側の立場 |
|---|---|---|
| クルタ族が襲われた件 | クラピカ | 一族の生き残り |
| 幻影旅団のヨークシン襲撃 | マフィアとゾルディック家 | 賞金をかけた側と雇われた側 |
| キメラアントの発生 | ハンター協会の討伐隊 | 会長が集めた民間の人手 |
| カイトが倒された件 | ゴン | その場にいた当事者 |
| ブラックホエール号の連続殺人 | 国王軍とハンター協会 | 船の権限を持つ側と雇われた側 |
制度が正面に出るのは5件目だけだ。ほかの4件では、警察や裁判所が動く場面はありません。
クルタ族の件がいちばん分かりやすい。一族が襲われたあとも緋の眼は闇市場に流れ、競売にまでかけられている。品物が公然と売り買いされているのに、出どころをたどる側は描かれません。緋の眼に値段が付く理由は 緋の眼はなぜ市場を渡り歩くのか で書きました。
外から追う人は、途中で降りられる
制度の外から追う人には、共通の弱点がある。やめられることだ。
マフィアは幻影旅団に賞金をかけました。ところが旅団が流星街の出だと分かると、懸賞金を白紙に戻して追跡そのものをやめている。
そのマフィアの頂点にいた十老頭は、ゾルディック家へ旅団の暗殺を依頼していました。ゼノとシルバはクロロを追い詰める。だが依頼人の十老頭が死んだという知らせが入ると、そこで打ち切って引き上げた。
依頼で結ばれた関係が切れたときに何が起きるかは 十老頭と幻影旅団は替えがきく部分が逆 にまとめました。
賞金も依頼も、外されれば終わる。懸賞金が消えたあと、賞金や依頼で旅団を追う側は描かれなくなります。
残ったのは、自分の理由で追う人だけだ。ヒソカは旅団狩りを宣言し、実際にコルトピとシャルナークを倒している。外から与えられた理由が消えても、自前の理由を持つ人は降りません。
制度が正面に出た1件も、降りられる側が動かしている
船内の連続殺人だけは、制度が動きました。ベンジャミンが国王軍を動かして戒厳令をしく。ミザイストムは下の層の兵を800人増やすことを提案しています。
ただ、フウゲツから話を聞いたのはミザイストム本人だ。特別捜査権を持つ犯罪ハンターで、弁護士であり民間警備会社の経営者でもある(能力の設計は → ミザイストムの念能力)。
警察署という場所は使う。それでも警察官ではありません。
しかもミザイストムが船にいるのは、協会の仕事としてだ。制度が正面に出た1件でも、実際に調べているのは降りられる側でした。船内の捜査の事情は ブラックホエール号の殺人を捜査しているのはハンター協会 にまとめました。
降りられない人だけが、事件を追い続けている
残るのは、降りる理由を持てない人たちだ。
クラピカは一族の生き残り。自分が降りればそこで止まる。ゴンも、カイトが倒された場に居合わせた当事者でした。
2人には、外してもらえる依頼も、取り下げられる賞金もない。だから追い続けている。
冨樫が治安の制度をきちんと置いたのは、この差を出すためだと俺は読んでいます。取り締まる仕組みが無い世界なら、誰も追わないことに説明が要らない。そういう世界だから、で片づいてしまう。
制度があるのに事件がそこへ行かないと、追いかける人の側に理由が必要になります。当事者なのか、雇われたのか、賞金が出ているのか。
理由がはっきりしているぶん、それが消えたときに降りる姿も描ける。マフィアが追跡をやめる場面も、ゾルディック家が引き上げる場面もそうだ。途中で降りられることを見せるために置かれていると読めます。
ハンターという職業の置き方も、この見方と合っています。ライセンスは入国禁止国の9割へ入れる強い資格だ。ただし協会は民間の団体で、V5の統制には従う側にいる(協会の立場は → ハンター協会は国家の上にいない)。
まとめ|ハンターハンターの治安の仕組みと、事件を追う人
- 中央警察署・中央裁判所・国王軍支部・ネットポリス・長期の懲役刑と、取り締まる仕組みは置かれている
- それでも大きな事件5件のうち、制度が正面に出るのは船内の連続殺人だけだった
- その1件でも、フウゲツから話を聞いたのは特別捜査権を持つミザイストムで、警察官ではない
- 追う理由が外から来ている人は降りられる。マフィアは懸賞金を白紙に戻し、ゾルディック家は依頼人の死で引き上げた
- 降りる理由を持てないクラピカとゴンだけが、事件を追い続けている
制度はあるのに、事件はそこへ持ち込まれない。取り締まる側は用意されていて、話が行かないだけだ。
緋の眼が今も競売に出てくるのも、そこから説明が付くと読めます。緋の眼を追い続けているのはクラピカだけで、その1人が降りれば事件は起きたまま残ります。
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