チードルには戦闘力が足りない——この評価を先に口にしたのは読者ではない。会長選挙でパリストンが立てた条件だ。
ただし戦闘力を会長の条件に挙げたのは、協会の規定ではありません。規定に書かれているのは投票率と過半数だけ。強さについての決まりは1つもない。
質問サイトには今も「めっちゃ弱そう」といった書き込みが残っています。その見方の出どころは原作の中にある。しかも言い出した本人が、最後にチードルへ会長職を渡している。
※会長選挙編・キメラアント編・暗黒大陸編に触れます。扱うのは単行本既刊分(〜39巻)まで。
「チードルは弱い」の出どころは、パリストンの演説にある
出どころは32巻の演説だ。パリストンは会長に必須な条件として、戦闘力・経験・器の3つを挙げた。
そのうえで候補者を評価していく。チードルは戦闘力が足りない。レオリオは経験が足りない。だからミザイストムがふさわしい、という組み立てでした。
チードルへの戦闘力が足りないという評価は、ここで原作の中に置かれたものです。読者が勝手に言い出したものではない。だから通説として残りやすかった。
パリストンは自分を推していません。この人物が勝負をどこで組み立てるかは、パリストンの念能力が描かれない設計 で掘り下げています。
会長選挙に定められたのは、手続きの条件だけだった
では協会は会長に何を求めたのか。ネテロの遺言が決めたのは「次の会長は選挙で選ぶ」ところまでだ。選び方そのものは十二支んのくじ引きで決まった。引かれたのはジンが用意していた案です。
- 会員による互選
- 記名による投票
- 投票率95%以上
- 過半数の獲得
4つとも手続きの条件だ。強さ・戦闘力・系統に関するものは1つも入っていない。ハンター全員が候補者であり、同時に投票者でもある。
この条件が厳しすぎて、選挙は9回まで続いた。その経過は 会長選挙が9回続いた理由 にまとめてあります。落ちた理由は毎回、投票率か過半数のどちらかだ。戦闘力で落ちた候補は1人もいない。
規定の側は、強さを一度も条件にしていない。戦闘力を持ち出したのは、演説をした候補者のほうだった。ハンターの星の数にも、強さの条件は入っていません(→ 三ツ星ハンターの条件に強さは入っていない)。
ただし「会長に武力は要らない」とまでは言えません。ネテロは会長のままキメラアントの王の前に立ち、自分の拳で戦って右足と左腕を失っている。会長が前線に出た例は、直前の代に実際にあった。条件になっていないことと、使われないことは別です。
チードルを名指しした側は、その主張どおりに勝っていない
パリストンが演説に立った時点で、チードルはレオリオの当選を確信していた。票を計算すると311票、得票率50%超えという読みだった。
実際の結果は282票。過半数に届かず、選挙はまた次の回へ進みます。推薦されたミザイストムは58票の3位にとどまった。
戦闘力という条件は、争点にはなった。ただ、票をまとめる力は持たなかった。通説と原作のずれは、ここに出ています。
同じ演説会では、パリストンより前にミザイストムとチードルも立っている。ミザイストムは自分の票をチードルに入れてほしいと言い、そのチードルはレオリオを推薦した。チードル自身は一度も自分を売り込んでいません。
チードル=ヨークシャーに会長職を渡したのは、名指しした本人だった
選挙は9回目で決まった。当選したのはパリストン。13代会長だ。
ところが当選直後、パリストンは会長職を辞めます。辞める前にチードルを副会長へ指名し、その結果としてチードルが会長になった。
戦闘力が足りないと名指しした当人が、その相手に会長職を渡している。百科系の資料では第14代会長とされますが、この代の数え方は本編で示されたものではありません。
チードルは票で会長になっていない。選挙で選ばれたのはパリストンで、チードルはその辞任を受けて会長職に就いた。
「なぜチードルが会長なのか」という質問が繰り返される理由も、たぶんここにある。選挙で勝ったという分かりやすい説明が、この人物には付いていないからです。
会長職に要るのは、独りで前へ出る力ではない
会長になったあとのチードルは、単独で物事を決めていない。ビヨンドの扱いをめぐっては、V5から依頼を受けて動いています。
暗黒大陸への対応も十二支んの話し合いを通していく。協会の権限がどこまで届くかは、ハンター協会は国家の上にいない で整理した。
この役に要るのは、自分で前へ出る力ではなく、意見の割れた集まりを1つの決定にまとめる力だ。戦闘力の条件は、そこを測っていない。
チードル=ヨークシャー自身の肩書きも、そちらへ寄っています。三ツ星(トリプル)ハンターで、難病ハンター、法律学者。十二支んでのコードネームは戌(いぬ)。こうした呼び名がどう付くのかは、ハンターの種類は数えられない に書いています。
前の代と比べると違いがはっきりする。暗黒大陸を協会の禁忌に定めたのはネテロだ(渡航そのものを禁じているのはV5の不可侵条約のほう。→ ビヨンドとネテロが暗黒大陸に求めたもの)。ビヨンドに枷をかけたのもネテロ個人の判断だった。
同じ会長職でも、会長個人の名前で決める役ではなくなっている。チードルが引き継いだのは、そういう形になったあとの会長職だと俺は読んでいます。
まとめ|チードルが会長になった経緯と、戦闘力の話の出どころ
- チードルは戦闘力が足りない、という評価はパリストンが32巻の演説で述べたもの。読者が言い出した評価ではない
- それは会長に必須な3条件(戦闘力・経験・器)を自分で立てたうえでの評価で、協会の規定ではない
- 選挙の規定は互選・記名投票・投票率95%以上・過半数の4つ。ネテロの遺言が決めたのは「選挙で選ぶ」ところまでで、この4つはくじ引きで選ばれたジンの案だった
- パリストンの推したミザイストムは58票の3位にとどまり、その回も過半数に届かなかった
- チードルは票で会長になっていない。当選したパリストンが辞任し、副会長に指名されたチードルが会長職に就いた
戦闘力が足りないと言った人物が、その相手に会長職を渡して去っていく。この順番を見ると、演説の3条件が本気の基準だったのかも怪しくなります。
チードルの会長職は、選挙で勝ち取ったものではない。前任者が置いていったものを、そのまま引き受けた形になっている。
関連記事:
- 会長選挙が9回続いた理由 — 9回続いた投票率と過半数の話
- パリストンの念能力が描かれない設計 — 戦闘力を条件に挙げた側の戦い方
- ハンター協会は国家の上にいない — 会長が動かせる範囲
- ビヨンドとネテロが暗黒大陸に求めたもの — 会長個人の名前で決めていた前の代
- 三ツ星ハンターの条件に強さは入っていない — 星の数を決めているもの
- ハンターの種類は数えられない — 難病ハンターという呼び名の付き方

コメント