俺も以前は、バショウの念能力を最強の候補に数えていました。詠んだ俳句の内容が現実になるなら、勝てる相手はいない。そう思っていたからです。
ところが原作を読み直すと、その俳句を使った場面は3回しかない。うち1回は発動すらしていません。
今回は「何でも実現できる」「系統は具現化系」という2つの通説を、原作の描写と突き合わせます。
※ヨークシン編と、39巻までの王位継承戦編の展開に触れます。
バショウの念能力は8巻で1行しか語られていない
能力名は「流離の大俳人(グレイトハイカー)」。バショウが登場するのはヨークシン編の8巻、ノストラード組の採用試験の場です。
そこで語られた説明は短い。自分が詠んで書き記した句を実現させる。それだけでした。
8巻の時点では、実現の上限も、失敗の条件も、系統も語られていない。念能力の説明としては、かなり情報が少ないほうだ(→ 念能力の六系統とは)。
「何でも実現できる」という読み方は、この説明の短さから生まれた。制限が書かれていないので、制限がないように見える。ただ、書かれていないだけで、確認できたことにはなりません。
バショウの俳句が効いた場面は原作に2件しかない
「俳句に書いたことが実現するなら勝てるキャラがいない」。この言い方は、まとめサイトのスレッドでも個人のブログでも動画でも見つかる。最強候補として名前が挙がるときの根拠は、だいたいこの1点です。
では、その俳句が作中で使われたのは何回か。3回です。
| 場面 | 句が起こそうとしたこと | 結果 |
|---|---|---|
| 採用試験(8巻) | 殴ったものが燃える | 椅子が燃えた |
| 採用試験(8巻) | 問いに嘘をついた者が焼かれる | 発動しなかった |
| 王位継承戦(39巻) | 癒しと浄化 | 低級の邪霊が寄らなくなった |
火のほうは、バショウが紙を握って椅子を殴ると、火の気がないのに燃え上がった。念能力としては確かに成立しています。
嘘つきを焼く句は、そもそも発動していません。潜入していたスクワラは、クラピカとセンリツに見抜かれていた。この句に対しても嘘をつかず、自分から正体を認めた。条件にあてはまる相手が、その場からいなくなった形です。
護符は、姉を失ったあと衰弱していたフウゲツに渡されたもの。低級の邪霊を追い払う効果が出ている(→ 2人セゾンと秘密の扉)。
効き目が確認できるのは、3回のうち2回。しかも中身は、燃えたのが椅子1つ、追い払えたのが低級の邪霊だけです。護符も、大元を絶ったわけではないと、バショウが渡すときに言い添えている。
さらに椅子を燃やした直後、バショウは自分の句をこう評価しました。燃えがイマイチで駄作だった。出した効き目に、詠んだ本人が不満を言っている。
つまり原作で確認できるのは、小さく効いた例が2つと、発動しなかった例が1つ。「何でも実現できる」を裏づける場面は、まだ描かれていません。
制限が書かれていないのではなく、あとから書き足された
同じ通説には続きがある。制限が語られていないのだから、上限もないはずだ、という読み方です。
ただ、バショウの句は頭の中で思うだけでは終わりません。筆と紙が要る。採用試験でも、王位継承戦でフウゲツに渡したときも、書いたものが実際に手元にあった。
王位継承戦では、句の中身の条件も語られた。祈りの言葉を入れないと発動せず、季語を入れると効き目が上がるとされている。護符でバショウが選んだ祈りの言葉は「光」だったとされています。
初登場から30巻以上あとになって、条件が新たに書き足されたことになります。制限がない能力ではなく、制限がまだ全部は書かれていない能力だった。
発動に手順や道具が要る例は、ほかにもある。クラピカの鎖も、ハンゾーの分身も、決まった形を踏まないと成立しない(→ ハンゾーの念能力は本体を置いて出かける)。
ただ、バショウの手順には特徴がある。書く前に、句として成立する言葉を組み立てないといけない。技名を叫ぶのとは、必要な時間が違います(→ 念能力の技名を叫ぶと威力が上がる)。
この手順を戦闘中に踏んだ場面は、まだありません。句を書いたのは、採用試験の場と、王子を守るための護符を作ったとき。どちらも相手に攻撃されていない状況です。
バショウの系統が具現化系だという話は原作に出てこない
バショウの系統は、原作では一度も名指しされていません。水見式を受ける場面も、誰かが系統を口にする場面も描かれていない。
一方、アニメ版にはバショウ本人が具現化系だと語る場面がある。公式のゲームでも具現化系能力者と書かれていた。ネットで見かける「具現化系」は、こうした原作の外の資料が出どころです。
本編と本編外の資料では出どころが違うので、同じ扱いにはできない。原作だけを見るなら、系統は空欄のままです。
なお、ファンの間では特質系だという読み方も広まっている。願いをそのまま形にする点や、出来の良し悪しが効き目に響く点などが持ち出される。ただ、これも原作の裏づけがある話ではありません(→ 特質系には後からなれる)。
バショウの念能力は、効き目をオーラの量で決めていない
通説を外していくと、残るものがある。
椅子を燃やしたあと、バショウは火力が足りない理由を句の出来のせいにした。オーラが足りなかったとも、練が甘かったとも言っていません。効き目の良し悪しを、自分の作品の良し悪しとして語っている。
これは念能力としてかなり珍しい形だ。ふつう、出力を決めるのはオーラの量。それを引き上げる手順が制約と誓約になります(→ 制約と誓約は”念の交換レート”)。
バショウの場合、句の出来が効き目を左右する。オーラの量とは別のものが、効き目を決めていると読めます。
しかも作品の良し悪しには決まった正解がない。具現化系が使う前に代償を決めるような、はっきりした取り引きにはならない(→ 具現化系の念能力は使う前に決まる)。
俺はここに冨樫の狙いを見ています。制約を数字で置かず、本人の技量に置いた。だから強さの上限が原作から計算できないし、逆に「最強かもしれない」と言われ続ける余地も残る。
上限が高いかどうかは分からない。ただ、下限のほうは本人の調子で下がります。
まとめ|バショウの念能力で原作が見せたもの
- 8巻の説明は「詠んで書いた句を実現させる」まで。説明が短いことが、制限がないことと混ざって広まった
- 効き目が確認できるのは2件(椅子が燃えた・フウゲツの護符)。もう1件は発動せず、「何でも実現できる」を裏づける場面はまだない
- 王位継承戦では祈りの言葉と季語という条件が語られた。制限がないのではなく、まだ全部は書かれていなかった
- 系統は原作で明言されていない。「具現化系」はアニメ版や公式ゲームの表記で、本編とは出どころが違う
- 火力が足りない理由を、バショウは句の出来のせいにした。効き目を決めているのがオーラの量ではないと読める
最強かどうかを原作から決めることは、いまのところできません。ただ、効き目が本人の技量で決まる念能力は、俺の知る限りほかに例がない。そこがバショウの面白さです。
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