原作が数字で示した死者のうち、確認できる範囲でいちばん大きいのは512万人。貧者の薔薇(ミニチュアローズ)が、のべ250か国で出した累計です。
数字が書き込まれるのは、こういう死のほうでした。兵器や命令や制度が動いた場面。いっぽうウボォーギンがヨークシンでマフィアを殺した場面には、人数が出てきません。地下競売の襲撃も同じだ。
※ヨークシン編・グリードアイランド編・キメラアント編・暗黒大陸編・王位継承戦編に触れます。扱うのは単行本既刊分(〜39巻)と0巻「クラピカ追憶編」まで。
数が書かれた死と、数が伏せられた死
人がまとめて死んだ場面を、人数の記述があるかどうかで分けたのが次の表です。
| 場面 | 人数の記述 | 起きた形 |
|---|---|---|
| 貧者の薔薇の累計 | 512万人 | 兵器の配備 |
| 貧者の薔薇を使ったテロ | 11万人 | 兵器の配備 |
| 東ゴルトーの選別 | 人民47万8594名・兵士1万2905名 | 王の命令 |
| NGLの住民 | 人口217万人の国 | 女王の命令 |
| パプへの調査団 | 1000人規模で生還7名 | 国の派遣 |
| 十老頭の暗殺 | 10人 | 依頼 |
| 陰獣(ウボォーギンが倒した4人) | 4人 | 戦い |
| ノストラード組の護衛団 | 5人 | 戦い |
| ヨークシンの地下競売 | 記述なし | 戦い |
| ウボォーギンのマフィア殺害 | 記述なし | 戦い |
| ブラックホエール号の下層 | 記述なし | 制度 |
数字が書かれているのは、貧者の薔薇・東ゴルトー・NGL・パプ・十老頭の側。戦いの側で数が分かるのは陰獣と護衛団で、どちらも名前のある人物を1人ずつ数えた数です。
数字が書かれた死は、本人どうしの戦いではない
512万人と11万人は、貧者の薔薇の被害としてナレーションが読み上げる数です。テロで出たのが11万人、のべ250か国での累計が512万人。
毒を浴びた者の体は新しい毒を出し、そばにいる者へ移っていく(→ 貧者の薔薇は安いから手放せない)。殴り合いの結果として出た数ではない。
東ゴルトーでは、王の命令で国民に念が打ち込まれた。死ななかった者を念能力者として選り分け、兵か食料に回す段取りです(→ 東ゴルトーで蟻が新しく作ったものは2つだけ)。
国民およそ500万人を対象にした本番は完遂されていません。それでも実施されたぶんで、人民47万8594名と兵士1万2905名が死んでいる。1名の位まで数字が置かれています。
NGLの217万人は死者数ではなく、国の人口として示された数です。そこへ女王が兵隊を放ち、餌の量を1日に人間50人分から、のちに250人分へ増やしていく(→ NGL自治国は機械しか止められなかった)。国の大きさと、1日に消えていく量。並ぶのはこの2つの数字だ。
国が丸ごと餌になっていく経緯は、戦闘としては描かれない。読者が受け取るのは、人口の数字と餌の量のほうです。
パプの調査団も形が似ている。1000人規模で送り込まれ、戻ったのは7名。派遣を決めたのは国で、現地の戦いとしては描かれていません。十老頭の10人も、依頼を受けた側が仕事として殺している(→ 十老頭と幻影旅団は替えがきく部分が逆)。
どれも、倒した人物の名前より先に数字が出てくる。
戦いの場面で数が分かるのは、名前のある人物だけ
数が伏せられた側を見ると、向きが逆になる。
ヨークシンの地下競売では、旅団が会場にいたマフィアを皆殺しにする(→ ヨークシンの地下競売は表の競売と別物)。それでも何人が死んだかは書かれない。ウボォーギンが街でマフィアを相手にした場面も同じ。
この側で数が分かるのは、陰獣の4人とノストラード組の護衛団5人です。陰獣の4人はそろってウボォーギン1人に挑み、返り討ちにされている(→ 陰獣の念能力は殺すためではない)。護衛団は会場とその後の襲撃で倒されていく。どちらも名前と能力のある登場人物で、数でまとめられる死ではありません。
数が出るかどうかは、制度の側か戦いの側かだけでは決まらない。ブラックホエール号の下層でも人は死んでいるのに、数の記述はありません。分かるのは収容人数20万人と、モモゼ・サレサレ・カチョウと名前のついた死だけです(→ ブラックホエール号の内部は5階層)。
数字は、コマで見せきれない規模を示すために置かれているのではないか
ここまでが場面の整理です。
数字が付くのは、その死の大きさが戦闘描写では伝わらないときではないか。512万人も217万人も47万8594名も、コマの中に描ける量を超えている。数字を置かなければ、読者は規模を受け取れない。
逆に戦いの場面では、誰が誰を倒したかがコマで見えます。数は要らない。ウボォーギンが何人殺したかを書き足しても、あの場面で伝わるものは増えないだろう。
数字の付いた場面には、もう1つ共通点がある。どれも死んだ人たちの顔が出てこないことです。名前のある人物が死ぬときは数ではなく場面で描かれ(→ ハンターハンターの死亡キャラは3種類)、名前の出ない死は数で示される。この書き分けが、俺にはいちばん面白い。
東ゴルトーの数え方がそれをよく示している。47万8594名という1名の位まである数字に、個人の場面はありません。いっぽう同じ編で死んだカイトやポックルには、名前と倒れる場面が用意されている。カイトはのちに念獣として転生しますが、人間として倒れる場面はきちんと描かれる(→ カイトの転生は同じ人物なのか)。
例外は2つ|クルタ族の128人と、ゲンスルーの50名以上
この読みに収まらない場面が2つあります。
1つはクルタ族の128人。数字の出どころは0巻「クラピカ追憶編」に載った作中の新聞報道。虐殺そのものは本編で直接描かれません(→ クルタ族が滅ぼされた理由)。誰の指示だったのかも原作に書かれていない。
もう1つはゲンスルーです。仮の仲間として集めた50名以上からカードを奪い、全員を爆殺している(→ ゲンスルーの念能力は手の内を全部明かす)。人数が付いているのは、規模が桁違いだからではありません。
2つとも、数字の働きがほかと違う。クルタ族の128人は、里に残っていた一族がまとめて殺されたことを示す数。ゲンスルーの50名以上は、手口がどこまで徹底していたかを示す数です。
冨樫は死を、顔で描くか数で示すかに振り分けている
人がまとめて死んだ場面を集めて残ったのは、こういう形でした。
数字が置かれるのは、兵器や命令や制度が動いて、コマでは規模を見せきれない死のほう。戦いの場面では数が伏せられ、分かるのは名前のある人物が倒れたときだけ。制度の側でも、ブラックホエール号の下層のように数が出ない場所もある。
512万人や47万8594名に個人の場面がないのは、省略ではないはずだ。数でしか受け取れない死を、数のまま置いている。冨樫はそう振り分けているように見えます。
まとめ|ハンターハンターの死者数はどこに書かれているか
- 原作が数字で示した死者のうち、確認できる範囲でいちばん大きいのは貧者の薔薇の累計512万人。のべ250か国ぶんで、テロによる11万人も別に示される
- 東ゴルトーの選別でも、実施されたぶんで人民47万8594名と兵士1万2905名が死んでいる。1名の位まで数字が置かれた
- 数字が付いた死はほかに、NGLの人口217万人、パプの調査団1000人規模で生還7名、十老頭の10人。どれも兵器・命令・派遣・依頼の側で起きている
- 戦いの場面では数が伏せられる。ヨークシンの地下競売もウボォーギンのマフィア殺害も、人数の記述がない。数が分かるのは陰獣の4人とノストラード組の護衛団5人だけ
- 例外は2つ。クルタ族の128人は誰の指示か原作に書かれていない。ゲンスルーの50名以上は、規模ではなく手口を示す数だった
数字が置かれているのは、コマで見せきれない規模の死のほうです(→ 貧者の薔薇は安いから手放せない)。
顔で描く死と、数で示す死。どちらに振り分けるかは、規模がコマに収まるかどうかで決まっているように見えます。
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