ハンターハンターのインフレは半分だけ本当|キメラアント編で変わったもの

キメラアント編で強さの上限が上がったのは、原作のとおりです。一方で、幻影旅団が相対的に落ちたという部分は原作と食い違う。

旅団の上に立つ相手は、キメラアント編より前から描かれていた。変わったのは強さではなく、それを比べられる場面の数のほうです。

※キメラアント編とヨークシン編の展開に触れます。

インフレ論は、2つの言い分がくっついている

よく見かけるインフレ論は、たいてい2つに分けられます。1つ目は「キメラアント編で強さの上限が上がった」。2つ目は「だから幻影旅団が相対的に弱くなった」。

どちらもファンの間で実際に語られている見方です。質問サイトにはキメラアント編のインフレをどう思うかという問いが並ぶ。まとめサイトでも、旅団が蟻に見劣りするという話題が繰り返されている。原作に当てると、この2つは結論が分かれました。

メルエムと護衛軍で、強さの上限は本当に上がった

1つ目は通説のほうが当たっている。メルエムは生まれた時点で、王直属護衛軍すら上回る存在として描かれた。護衛軍クラスでようやく持ちこたえられる、という格付けが誕生の場面で示されます。

護衛軍の3体も、それまでの敵とは違う次元に置かれた。護衛軍3体はメルエムの何を補ったのか で扱ったとおり、あの3体は王を守るために配置された別格の戦力と読めます。

王がなぜ最初から強いのかは メルエムはなぜ最強で生まれた? のほうで書きました。上が伸びたという受け取りは、原作と食い違わない。

旅団が下がったわけではない|上位は前からいた

問題は2つ目です。旅団の実力が相対的に落ちたのなら、キメラアント編より前はどうだったか。旅団が最上位に近い場所にいたことになる。

でもヨークシン編では、逆のことが描かれている。ゾルディック家のゼノとシルバが、旅団の団長を狙って動いた。十老頭からの依頼を受けた暗殺です。

この戦いは実力で決着していない。団長が先回りして別の暗殺者を雇い、依頼主の十老頭が消されている。依頼そのものが消えて、2人は引き上げた。

その引き上げ際、団長はゼノに1対1ならどちらが勝つかと聞いた。ゼノの答えは「十中八九ワシじゃろ」。ただし「お主が本気でワシを殺ろうと思えば話は別だがな」と続けている。

1対1という条件付きではあるものの、団長より上に立つ相手がキメラアント編より前から置かれていた。ゼノの念能力シルバの念能力 で追いかけた、作中でも屈指の実力者2人です。

ネテロも同じ。会長の座にいる時点で、協会の最上位として扱われている。キメラアント編で急に強くなったわけではない。

旅団は下がっていない。上にいた人たちが、キメラアント編で正面から前に出てきただけです。

旅団と蟻はどっちが強いのか

とはいえ、どちらが強いのかという問いには答えが要ります。作中の描写で並べるかぎり、群れの上位は旅団の上位より上です。王と護衛軍に旅団の団員が勝てる根拠は描かれていない。

師団長クラスまで下りれば話は変わる。ただ、頂点同士では蟻のほうが上に置かれている。

これは旅団が弱いという話ではない。旅団の上には人間側にもゼノやネテロがいて、その人たちが蟻と戦っている。旅団は最初から最上位の集団ではなく、最上位が別にいる構造だっただけです。

キメラアント編で増えたのは、強さを比べる場面のほう

インフレしたように感じる原因は、強さそのものではなく比べる場面の量にある。俺はそう見ています。

キメラアント編より前は、全体の順位を正面から見せる場面が多くなかった。ハンター試験は試験の中、天空闘技場は階層の中、ヨークシン編は旅団と依頼側の中。比較はそれぞれの話の内側で起きる。

キメラアント編は違う。話をまたいだ比較が、次々と正面から描かれます。

  • 討伐隊の人選が、誰と誰を組ませれば王に届くのかという見積りになっている
  • 王宮へ突入したゼノの龍頭戯画の龍がピトーの円に触れた瞬間、互いの力量を察知する
  • 王と護衛軍と師団長という序列が、群れの側にはっきり引かれている

とくに討伐隊の編成は分かりやすいと思う。少数精鋭にした理由から人選の組み合わせまでが説明されます。読者から見ても、実力の並びが追える形になっている。人選の狙いは 討伐隊の4つの手 にまとめました。

順位が見えるようになると、それまでの差も見える

比べる場面が増えると、読者の側で全体の順位がそろっていく。順位ができた瞬間、旅団は「上から数えて何番目か」で語られる相手になった。

ヨークシン編を読んでいる間、旅団は基準そのものでした。ウボォーギンは強化系を極めたと語ったとされる。実際に単独で陰獣4人を倒している。読者は旅団の内側で強さを測っていた。

キメラアント編でその外側が描かれると、同じ旅団が別の位置に見えてくる。順位は基準を変えるだけで入れ替わります(→ 最強議論はなぜ決着しないのか)。

弱くなったのではなく、比べる相手が増えた。変わったのは強さの上限ではなく、それを測る場面の数のほうです。

インフレ論を原作に沿って言い直すと

2つの言い分は、こう書き換えられる。上限は上がった。王と護衛軍という別格の存在が加わったためで、ここは通説どおり。

ただしその上限は、人間側の最上位を押し下げていません。ゼノもシルバもネテロも、キメラアント編に入って格付けが変わったわけではない。

旅団が弱く見えるという感覚のほうは、当たっています。ただし理由が違う。インフレで旅団が置いていかれたわけではない。キメラアント編が、全体の順位を見せる場面を用意したからです。

ヨークシン編の時点でも旅団は最強ではありませんでした。手がかりは描かれていたのに、読者の側で順位までは見えていなかった。ウボォーギンの念能力 を読み返しても、強さの描かれ方はキメラアント編の前後で何も変わっていない。

まとめ|インフレは上限だけ、旅団は下がっていない

  • 「キメラアント編で強さの上限が上がった」は原作と一致。メルエムは護衛軍すら上回る存在として生まれ、その護衛軍も別格に置かれた
  • 「だから旅団が相対的に落ちた」のほうは原作と食い違う。ヨークシン編で、団長はゼノに1対1ならどちらが勝つかと聞いた。ゼノは条件を付けたうえで、十中八九自分だと答えている
  • ネテロもキメラアント編で強くなったわけではなく、会長として前から最上位に置かれていた
  • 増えたのは強さではなく、話をまたいで強さを比べる場面。討伐隊の人選や、龍頭戯画の龍とピトーの円が触れる場面がその代表
  • 旅団が弱く見えること自体は当たっている。順位が読者にも見えるようになった結果で、下がったわけではない

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