安く作れるから世界へ広まり、毒が止まらないから使う場所がない。貧者の薔薇(ミニチュアローズ)は、この2つの性質を同時に持つ兵器です。
持っていても使えないのに、安すぎて捨てられない。この矛盾から、最後の届け方まで決まっていました。
蟻の王メルエムへ運んだのは、爆撃機でも砲でもない。人間1人の体だった。
※キメラアント編の結末に触れます。
貧者の薔薇が広まったのは、安く小さく作れるから
貧者の薔薇は低予算で作れて小型。技術さえ固まれば、短い期間で大量に作れます。
この3つがそろっているため、独裁小国家に好まれました。テロリストにも渡っていて、敵対国の首都で使われたときは11万人あまりが死んでいる。
名前の由来も安さのほうにある。低予算で小型・大量生産できることと、爆煙の姿が薔薇に見立てられたことから、そう呼ばれました。
被害の規模は作中で数字が出ている。のべ250もの国で、その10倍にあたる回数の爆発を起こし、512万人の命を奪った。核兵器を思わせる規模なのに、扱われ方は「安くて誰でも持てる道具」に近いものでした。
貧者の薔薇の毒は、止まるようにできていない
この兵器の本体は爆発ではない。中心にあるのは、爆発と同時にまき散らされる毒のほうです。
毒を浴びた者の体は、それ自体が毒になる。新しい毒を出し、そばにいる相手へ移していきます。1発が、連なった被害へ変わっていく。
この連鎖は偶然の副作用ではない。毒の量と、死ぬまでの時間の釣り合いが、大量の連鎖被毒者を生む、と説明されています。釣り合いが取れているのは、そう作られているからだ。
すぐには死なないので、被毒した者が動き回る。その間に次の相手へ渡してしまう。止まらないことは欠陥ではなく、この兵器が備えている働きのほうでした。
安さと毒がそろうと、捨てられないのに使えない兵器になる
安さと毒は、それぞれ別のところで効いてくる。まず、安く作れる兵器は広まりやすく、同時に手放しにくくもなる。作中では、テロでの使用をきっかけに新規の生産を禁じる国際条約ができました。それでも保有国の8割は廃棄に難色を示しています。
安く大量に持てるものほど、減らす合意は取りにくい。持っている側にとって、捨てる理由が弱いからです。
一方、毒があるせいで使える場面はなくなっていく。撃った先が味方まで巻き込むなら、持っていても使いどころがない。2つの性質が同じ兵器にそろっている。だから貧者の薔薇は、減らせないのに使えないまま世界に積み上がります。
現実の兵器にある問題が、そのまま持ち込まれた形に見えます。強い武器の難しさは威力ではなく、持ったあとに扱いようがなくなることのほうにある。
王の居場所が分かっていても、そこへは落とせない
毒が止まらないなら、討伐の進め方にも同じ制約が出るはずです。蟻の王メルエムは東ゴルトーの王宮にいた。場所は分かっている。
それでも決戦の場になったのは王宮ではなく、ゼノの龍で降り立った戦争兵器の実験場だった。王宮ごと貧者の薔薇で潰す形は取られていません(→ キメラアント編の勝因は作戦にある)。
この選び方の理由は原作で語られていない。ただ、毒が止まらないことを考えると説明はつきます。国民500万人が住む国の中心へ落とせば、被害は蟻の側だけで終わらない。潜入している討伐隊も同じ毒を浴びます。
強い兵器を持っていても、使える場面が限られる。ここでも効いていたのは威力ではなく、止まらないという性質のほうだった。
運び方に残った答えが、人間1人の体だった
落とせないなら、どうやって王へ届けるのか。ネテロは貧者の薔薇を自分の体に仕込み、心臓が止まることを起動の合図にしていました。運搬の手段も、投下する装置も、遠隔の指令もない。
小型で安いからこそ、この形が成り立ちます。大掛かりな兵器なら、王の前まで持ち込むこと自体ができない。
そして、この届け方を選べる人は限られます。心臓が止まるまで王と向き合い続けられる者でなければ、運び手にならない。安く小さいから選べた届け方。その代わり、運び手の命が起動の条件になりました。
爆発では王は死ななかった|最後まで働いたのは毒
メルエムは爆発を受けても死んでいない。護衛軍プフとユピーの細胞を取り込み、いったんは立て直しています(→ 護衛軍3体はメルエムの何を補ったのか)。
それでも毒は抜けなかった。ユピーもプフも死に、王のそばにいたコムギも同じ毒で死んでいます。
決着をつけたのは爆発の威力ではなく、後から効いてくるほうの性質だった(→ メルエムはなぜ最強で生まれた?)。討伐隊が用意した手段のうち、最後まで働いたのは止まらないことです。
強さの物語を、強さ以外で終わらせるための兵器
キメラアント編は、強さの上限が上がり続ける話でした。王は進化し、護衛軍が付き、人間側の最強が正面から届かない。その決着に置かれたのが、独裁小国家でも持てる安物だった。
俺はここに冨樫の狙いがあったと考えています。理由は2つある。
1つは、上がり続けた強さを、強さ以外の要素で決着させたこと。もう1つは、勝った側が誇れない形にしたことです。250もの国で人を焼いてきた兵器で勝っても、きれいな勝利にはならない。
キメラアント編の終わりが重く残るのは、この兵器の選び方にも理由があると思う。安く広まったものが、いちばん強い相手を倒した(→ キメラアントは絶滅していない)。
まとめ|貧者の薔薇は、安さと毒の両方で使いどころを失った兵器
- 低予算・小型・大量生産の3つがそろうため独裁小国家に広まり、テロにも使われた。のべ250もの国でその10倍の回数の爆発が起き、512万人が死んでいる
- 毒が止まらないのは欠陥ではなく備わった働き。被毒した体が新しい毒を出し、そばにいる相手へ移っていく
- 安いから廃棄の合意が取れず、毒が止まらないから使う場面もない。国際条約ができても保有国の8割が廃棄に難色を示した
- 王の居場所は分かっていたが、決戦の場は王宮ではなく戦争兵器の実験場だった。理由は原作に明示がないが、毒が止まらないことと矛盾しない
- 届け方に残ったのは人間1人の体で、運び手の命が起動の条件になった
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