ハンターハンターの最期のセリフ|運び手がいた言葉だけが先へ進む

ハンターハンターの最期のセリフは、たいていその場で止まる。動くのは、言葉を運ぶ仕掛けが別に用意されていたときだけ。分けているのは言葉の強さではなく、運び手がいたかどうかです。

いちばん遠くまで運ばれた言葉から見ていきます。

※ヨークシン編・キメラアント編・会長選挙編・暗黒大陸編に触れます。扱うのは単行本既刊分(〜39巻)まで。

女王が渡した「メルエム」は、3つの死をまたいで運ばれた

キメラアントの女王は21巻 No.215「遺言」で死ぬ。最期にしたのは、自分の子に名をつけることでした。メルエム。全てを照らす光、という意味を込めて。

女王には言葉を運ぶ手立てがありません。念能力で撃ち込んだわけでも、録画を残したわけでもない。それでもこの名前は、その場から動いていく。

メルエム本人は、自分の名を知らないまま育った。コムギに聞かれても答えられない。本人に告げたのはネテロで、それも自分が死ぬ場面でのことです。

そして30巻 No.318「遺言」で、その名を呼ぶのはコムギでした。「おやすみなさい・・・メルエム・・・。ワダすもすぐ、いきますから」。

女王の言葉を運んだのは、手立てではなく中身だ。名前は、受け取った側が使うたびに次へ進む。この形はここだけです。

3人の最期のセリフを、届いた先で比べる

女王のような例は珍しい。ほかの人物は、運び手を持っていたかどうかで結果がはっきり分かれます。

人物 誰に向けたか 運ぶ手立て そのあと物語が動いたか
ウボォーギン クラピカ 無し 動いた場面は描かれない
ネテロ 死に際はメルエム/遺言は十二支ん 生前に録ったビデオ 動いた
パクノダ 旅団の初期メンバー 自分の念能力 動いた

いちばん短く鋭いのはウボォーギンのセリフです。それでも先へ進んだのは、あとの2人だった。

差が出ているのは言葉の中身ではない。言葉をどこに置いたかだ。ネテロは死ぬ前に外へ出し、パクノダは死ぬ瞬間に外へ出しています。

ウボォーギンの「くたばれ バカが」は、その場で止まっている

ウボォーギンはクラピカに捕らえられ、仲間の能力や居場所を吐くよう迫られる。問いかけに返したのは「殺せ」。そして最後に残したのが「くたばれ バカが」でした。

相手に向いていて、意思もはっきり伝わる。ただ、この言葉の宛先はクラピカです。クラピカはそのあとウボォーギンを荒野に埋め、その場を去っている(→ ハンターハンターの遺体と墓)。

のちにパクノダは鎖の使い手の正体にたどり着きます。ただし旅団へ渡ったのは、クラピカの人相と能力・弱点だった。最期のセリフが伝わる場面は出てきません。

宛先が1人で、その1人が誰にも伝えなければ、言葉はそこで終わる。作中ではこれがふつうの形です。

ネテロの遺言は、死ぬ前に録られている

ネテロにも死に際のセリフはある。貧者の薔薇を起動する場面で残した「地獄があるならまたあおうぜ。」。メルエムに向いた言葉で、ここまではウボォーギンと変わりません。

違うのは、もう1つの言葉を別の場所に用意していたことだ。生きているうちに録っておいたビデオの遺言。

中身は、次の会長は選挙で決めよという指示。ネテロの死後、十二支んはこの遺言にしたがって第13代会長総選挙を運営します(→ チードルが会長になった経緯)。暗黒大陸についての指令も、同じやり方で残されていた。

ネテロは自分が死ぬことを前提に、運び手を先に用意している。死に際に何を言うかではなく、死んだあとに誰が再生するかを決めていた。

パクノダは、言葉ではなく記憶そのものを撃ち込んだ

パクノダはクラピカの情報を漏らさないという制約を受けていた。それを承知で、旅団の初期メンバーへ記憶弾を撃ち込んでいます。「信じて、受けとめてくれる?」と告げてから(→ 誓約を破って罰が下ったのは2度だけ)。

弾に込められたのは、クラピカの能力と弱点。仲間はそれを受け入れた。そして制約を破ったパクノダは、その場で心臓を握り潰されて死にます。

ネテロと違うのは、用意と実行が同じ場面にあることです。運び手が自分の念能力そのものだった。撃ち込んだ瞬間が、そのまま死ぬ瞬間になっている。

届いたのも言葉ではなく記憶だ。「信じて、受けとめてくれる?」というセリフは、渡すという行為の合図になっている(→ 幻影旅団の全滅説を数で確かめる)。

冨樫が死の場面に置いているもの

4つの死を並べると、言葉の側に共通点は見つかりません。罵倒、指示、合図、名づけ。中身はばらばらです。

そろっているのは、外へ出た言葉に必ず運び手が付いていたことだ。ネテロのビデオ、パクノダの念能力、そして女王の場合は名前という中身そのもの。

キメラアント編には「遺言」という題の回が2つあります。女王が死ぬ21巻 No.215 と、編の最終話 No.318(30巻収録)。片方は死ぬ側が名を渡す回で、もう片方はその名が呼ばれて終わる回だ。

No.318 は、ページの大半が黒く塗られています。コマも背景もなく、メルエムとコムギの会話だけが並ぶ。言葉しか残らない回を、冨樫は編の最後に持ってきた。

死の場面に何を置くかで、その死がどこまで届くかが決まる。俺にはこの作り方が、強さや立場の書き分けと同じくらい意識されているように見えます(→ ハンターハンターの主人公交代はヨークシン編で起きていた)。

まとめ|ハンターハンターの最期のセリフはどこまで届くか

  • 最期のセリフが先へ進むかどうかは、言葉の強さよりも外へ運ぶ手立てがあったかで分かれている
  • ウボォーギンの「くたばれ バカが」はクラピカに向いたまま終わり、旅団へ伝わった場面は描かれない
  • ネテロは生きているうちにビデオの遺言を録り、その言葉が第13代会長総選挙を動かした
  • パクノダは自分の念能力で記憶を撃ち込み、渡した直後に制約を破った代償で死んでいる
  • 運ぶ手立てを持たない女王の「メルエム」だけは、名前という中身だけで人から人へ渡っていった

死の場面で何を言うかは、本人が決められます。ただ、それを次へ運ぶ役がいるかどうかまでは選べない。ハンターハンターの死に際は、その差のうえに組まれていました。

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