ゾルディック家の暗殺依頼料は原作に出てこない|金で動く層は仕事だけ

ゾルディック家に暗殺を頼むといくらかかるのか。原作を読み返しても、この答えは出てきません。

伏せられているのは偶然ではないと考えています。値段が分かると、この一家は損得で買える相手になる。それを避けるための処理だと読める。金額が伏せられた場面と、ふつうに示される場面を並べて確かめる。

※ヨークシン編・キメラアント編と、会長選挙編(32巻まで)の展開に触れます。

ゾルディック家の依頼料は、原作で一度も語られない

暗殺の対価らしき数字が出るのは、ミルキが父シルバに金をせがむ場面だけです。15人殺るから150億ほど貸してくれ、と持ちかけている(→ ミルキの念能力が本編で描かれないのはなぜか)。

ただしこれは依頼人が提示した額ではない。グリードアイランドを競り落とす資金を、父から借りるための交渉だ。15人ぶんの仕事は、返済の当てとして差し出したにすぎない。

唯一の数字ですら、依頼料の場面ではありませんでした。シルバがいくらで動いたのか、ゼノがいくら受け取ったのかは、最後まで書かれない。

暗殺一家という設定なら、相場を1行入れるだけで格を示せたはずです。冨樫はそれをやっていない。

作中の金額はきちんと描かれている。この一家だけが例外

金額を書かない作家だから、という説明は成り立ちません。ハンターハンターの世界には、値段の情報がふつうに流れています。

ゴンとキルアの携帯電話に10万円ほど、ゴンたちが開いた競売の参加料が9,000円。ジェニーは円の9割で換算できるところまで分かる(→ ジェニーは円の9割)。

オークションの落札額も具体的です。ヨークシンではグリードアイランドが競りにかけられ、バッテラが7本すべて落札している。競売にかかるものには、きちんと値が付く。

ゾルディック家に付いている金額も、まったく無いわけではありません。顔写真ですら1億ジェニーの値がつくと噂された、と資料には書かれています。ただしこれはこの一家を外から見る側が払う額であって、仕事を頼む側の値段ではない。

物価も参加料も落札額も書かれているのに、この一家の仕事の値段だけが空欄です。書けなかったのではなく、書かなかったと読むほうが自然だと思う。

ヨークシンで消えたのは報酬ではなく依頼人だった

金が絡む場面でも、話は値段のほうへ行かない。ヨークシン編の撤退がそうです。

ゼノとシルバはクロロと戦っていました。決着がつく直前、依頼主だった十老頭が殺されたという連絡が入る。2人はその場で戦いをやめて引き上げます。

このときゼノは、好きでやっているわけではない、という趣旨のことをクロロに言い残した。仕事だから戦い、仕事でなくなったからやめる。筋は通っています。

ただ、ここで消えたのは報酬ではなく依頼人のほうだ。金額の交渉が決裂したのではない。払う相手そのものがいなくなった。

しかも十老頭を消したのは、クロロから依頼を受けたイルミたちでした。値段ではなく依頼の有無だけで勝負がついている(→ 十老頭と幻影旅団は替えがきく部分が逆)。契約として何が縛られているかは、旅団や流星街の掟と並べたほうが分かりやすい(→ 幻影旅団の掟は内向き、流星街は外向き)。

この家の上下には、金の外にある2つの層がある

仕事の層の外側には、はじめから金の入り込む余地がない。上にあるのが家族の条件です。31巻の家族内指令(インナー・ミッション)には、家族は殺さないという条件が付いている。誰がいくら積んでも動く決まりではない。

ところが、この条件のほうがあやしい。イルミは家族内指令では家族を殺さないと言いながら、家族はね、と付け足した。アルカを家族に数えていない言い方だ。キルアの側も、ナニカに母親を殺せと命じかけている。

下にあるのが個人の流儀です。ゼノは標的以外を巻き込まないやり方を通してきた。キメラアント編では、コムギを巻き込みかけている。そのあと、稼業を継いで初めて無関係の人間を殺めたかもしれない、と漏らした(→ ゼノの念能力は“暗殺の効率”で読み解ける)。

報酬が減る話ではない。契約違反でもありません。同じ家のイルミは逆の方向にいる。選挙編では針で操った人間を並べ、アルカを連れたキルアを追い詰めた(→ キルアはイルミの針が抜けても逃げる)。

金で動く層は静かに打ち切られ、金の外にある2層のほうが守りきれていない。描かれ方が逆になっています。

キルアの家出を決めたのは、値段ではなく本人だった

暗殺者として育てられた息子が家業を離れる。金で動く一家なら、違約金なり買い戻しなりの交渉になってもおかしくない場面です。

実際に描かれたのは、そういう話ではありませんでした。キルアは母の顔面と次男ミルキの脇腹を刺し、そのまま出ていく。結果として、家族は誰も死んでいません。

この場面に数字は一つも置かれていない。出ていくかどうかを決めたのは、キルア本人でした。

もし家業の相場が示されていたら、この場面は違って見えたはずです。いくらの稼ぎを捨てたのかが読者に伝わり、離脱は計算できる問題になる。捨てた額が分かれば、覚悟の重さは金額で測れてしまう。

値段を伏せると、この一家は買えない集団になる

ここまでの場面は、3つの層に分かれます。依頼人との仕事、家族の条件、個人の流儀。

金が入るのは真ん中の層だけ。ミルキの150億もヨークシンの撤退も、そこで起きた出来事だ。家族の条件と個人の流儀は、上下からその層を挟んでいます。

キルアの家出は、その3層をまたいで出ていく場面にあたる。だから損得の話にならない。金で動く層を一度も通らずに出ていったからです。

冨樫が相場を書かなかった理由は、ここにあると読んでいます。金額を出せば、読者は真ん中の層だけでこの一家を理解する。いくらで殺すのか、いくら払えば止まるのか。

額を伏せたまま条件だけを描くと、真ん中の層は最初から狭く見えます。払って動かせる範囲がどこまでか、読者には測れない。暗殺という仕事を扱いながら、そこだけを空欄にしてある。

まとめ|ゾルディック家の依頼料をめぐって描かれたこと

  • 暗殺の対価らしき数字が出るのはミルキの場面だけ。しかも依頼人が払った額ではなく、父への前借りの口実だった
  • 携帯の値段も競売の参加料もオークションの落札額も書かれている。金額を書かない作品ではない
  • ヨークシンの撤退で消えたのは報酬ではなく依頼人。しかもその依頼人を消したのは、クロロの依頼を受けたイルミたちだった
  • 家族の条件と個人の流儀には、はじめから値段がつかない。そしてその2層のほうが、決まりはきちんと守られていない
  • キルアの家出でも、金額は一切示されない。相場が分かっていれば、離脱は計算できる問題になっていた

金さえ払えば動く一家として読むと、この家は分かりにくい。払って動かせるのは3層のうち真ん中だけで、その真ん中の金額さえ示されません。空欄のままにしたことが、この一家を最後まで得体の知れない存在にしていると思う。

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