国が一つ丸ごと制圧された相手に、ハンター協会が送り込んだ隊員は6人だけ。戦力の出し惜しみに見える数字だ。
ただ、キメラアントは食べた相手の特徴も知識も次の世代へ引き継ぐ。人を増やすほど、負けたときに相手が強くなる。頭数が武器にならない敵でした。
冨樫はそういうルールの敵を先に作ってから、この人数を決めたのではないか。俺はそう読んでいます。
※ネタバレ注意。NGL突入から王宮の決着まで触れています。
キメラアント討伐隊のメンバー6人はどう集まったか
最初にNGL自治国へ入ったのは3人。会長のネテロ、モラウ、ノヴという、プロハンターだけの編成だった。
そこへ弟子が3人加わる。モラウの弟子のナックルとシュート、ノヴの弟子のパーム。これで隊員は6人になりました。
ゴンとキルアが加わるのは、この6人が決まったあとです。ナックルとシュートに勝てたら隊に入れる、という条件を出されました。2人とも敗れている。それでも、のちに隊へ合流しました。
顔ぶれを見ると、正面から殴り合う役がほとんどいない。
- ネテロ:王を討つ
- モラウ:煙を具現化して視界を奪い、動きを止める(→ モラウの念能力は”戦場ごと作り替える”)
- ノヴ:空間をつないで、出入りと退避の道を作る
- ナックル:オーラを貸し付け、利息で相手を絶へ落とす(→ ナックルの念能力ハコワレを”借金の収支”で読む)
- シュート:傷を負った部位を檻に閉じ込める(→ シュートの念能力を”臆病さ”から読む)
- パーム:離れた場所から敵を監視し、自ら宮殿へも潜入する
プロハンター3人と、その弟子3人。1つの役に2人を重ねる余裕は、この人数にはありません。
討伐隊が少人数なのは、食われた戦力が敵側の力になるから
人数を絞った理由を、ネテロ自身が語っています。中途半端な戦力を送れば、それごと敵に吸収される。そういう説明でした。
この説明はキメラアントの産まれ方に直結する。女王は摂食交配という産み方をする。食べた生き物の特徴が、次に産む個体へ受け継がれる仕組みです(→ メルエムはなぜ最強で生まれた?)。
渡るのは体の特徴だけではない。捕食されたポックルは、脳から念の知識を抜き取られた。系統の考え方も、纏や絶といった基礎も、体系ごと蟻の側へ移っています。
食べられた側が持っていたものは、そのまま敵の側の力になる。
普通の戦争なら、頭数は多いほど有利。この戦いだけは逆。送り込んだ人数が、そのまま負けたときの相手の材料になる。だから増員という手は、そもそも安全ではありませんでした。
討伐隊6人は同じ役に人を重ねていない
戦力を足せないとなると、残る手は組み合わせだけ。
6人の内訳を見ると、同じ役に人を重ねた箇所がない。監視はパーム、足止めはモラウ、移動と退避はノヴ、決め手はネテロ。
ナックルとシュートは同じユピーに当たる。ただし片方は絶へ追い込み、片方は閉じ込める。手はまったく別です。
ここが少数精鋭という言葉の中身だと思います。強い者を集めたのではなく、欠けたら作戦が止まる場所だけを埋めた。
そう考える根拠は、宮殿へ突入する場面にある。モラウはプフ、ナックルとシュートはユピー、ネテロは王。それぞれが別の相手を受け持っていた。
頭数で押す編成なら、こういう分かれ方はしない。一人ひとりが替えの利かない役を持つから、散っても機能する。逆に言うと、誰か1人が欠けた時点で、その役目を担う者がいなくなる。
実際、突入の時点でパームはすでに隊を離れていました。ノヴも宮殿内にいない。出入口は事前に設置してあり、本人はプフのオーラを見て戦線を退いています。設計どおりに全員が持ち場へ立てたわけではない。
宮殿でどんな手が使われたかは キメラアント編の勝因は作戦にある に整理しました。
足したのは人数ではなく、範囲を区切った助っ人だった
戦力がまったく足されなかったわけではありません。宮殿の作戦には、ゼノとシルバのゾルディック親子が加わっています。
ただ、この2人は隊員ではない。報酬を払って雇った外部の戦力。引き受けた仕事も王と護衛軍を分断するところまでで、王の暗殺は依頼に入っていません。
ここからは俺の推測。隊に組み込めば、その人物ごと食われる可能性を抱えることになる。仕事を区切って外から呼べば、協会の戦力そのものを蟻へ渡さずに済む。
人選のルールが隊の外にまで効いている。そう見ています。
ネテロが十二支んを呼ばなかったのはなぜか
呼ばれなかった側を見ると、人選の考え方がもう少し分かりやすくなります。ネテロはハンター協会の会長で、十二支んという直属の集団を持っていました。それでも討伐隊に十二支んは入っていない。
なぜ自分たちではなくモラウとノヴだったのか。この疑問は、ネテロの死後に十二支んの側からも出ています。
協会を回すために手元へ残した、という説明はできる。渡したときの損害が大きい能力を持つ者ほど連れて行けない、とも読める。ただしこの2つ目の見方は、作中で明かされている理由ではありません。
ファンのあいだでは、ネテロ自身の望みから説明する声もあります。王とは自分の手で戦いたかった。守ろうとして動く部下がそばにいては、それができない。この見方は、最後の一騎打ちとよく合う。
当時の協会がまとまっていなかったことも確かだ。副会長のパリストンは、後に会長の邪魔をしたかっただけだと自分で語っています(→ パリストンの念能力が描かれない設計)。
ただし、パリストンの動きがキメラアント討伐の妨害として描かれたわけではありません。総力戦を取りにくかったのではないか、というのはファンの推測にとどまります。
理由がどれであっても、蟻という敵の性質だけで人数を絞った説明はつきます。
冨樫はなぜ「増やせない敵」を用意したのか
摂食交配は、キメラアントを強くするためだけの設定ではないと俺は考えています。読者が思いつく対処法を、先に1つ潰すための仕組みでもあったのではないか。
強い敵が出てきたとき、まず浮かぶのは「もっと人を集めればいい」という発想。その手を最初から封じておくと、話の焦点が数から中身へ移る。
実際、キメラアント編で語られ続けたのは組み合わせの話でした。誰を誰にぶつけるか。どの能力とどの能力を組むか。増援を待つ展開は、最後まで出てこない。
対になっているのが蟻の側の作り。蟻は食べるほど増え、強くなる。同じ戦場に、まったく逆の伸び方をする2つの勢力が置かれている。
数で押せる敵に数で勝っても、読者は何も考えずに読み終えてしまう。頭数が使えない条件を先に敷いたから、6人という無茶な数字が成立したのだと思います。
人選のルールは最後まで守られたか
この編成が正解だったかというと、そう単純でもありません。ネテロは王を武術で止めきれず、自分の死をきっかけに起動する仕掛けで決着をつけました。パームは宮殿への潜入に失敗して捕らわれ、キメラアントへ改造された。討伐隊の側も無傷では終わっていない。
それでも、能力ごと蟻の子へ受け継がれた隊員はいませんでした。パームは改造されて一時は敵側に回った。しかしキルアとのやり取りの末に自我を取り戻し、隊へ戻っています。
渡さないという一点だけは、最後まで崩れなかった。強い者を6人そろえた編成ではなく、渡してはいけないものを守り切る編成だった。そう考えると筋が通ります。
護衛軍3体がそれぞれ別の相手に張り付き、王の周りが薄くなった経緯は 護衛軍3体はメルエムの何を補ったのか にまとめました。討伐が終わったあとに何が残ったのかは キメラアントは絶滅していない をどうぞ。
まとめ|討伐隊が6人だった理由
- 討伐隊はネテロ・モラウ・ノヴの3人に、その弟子であるナックル・シュート・パームが加わった6人。ゴンとキルアはさらに後から合流した
- 少人数なのは、食べられると持っていたものが蟻の側の力になるため。人を増やすほど負けたときの相手が強くなる
- 6人は同じ役に人を重ねておらず、監視・足止め・移動と退避・無力化・決め手がそれぞれ1人ずつに割り振られている
- ゼノとシルバは隊員ではなく、王と護衛軍の分断までを引き受けた外部の戦力。増員ではなく範囲を区切った借り方をしている
- 冨樫は「人を増やせば勝てる」という手を先に封じることで、話を頭数から組み合わせへ移したのだと俺は考えている
関連記事:
- キメラアント編の勝因は作戦にある — 宮殿で使われた4つの手
- 護衛軍3体はメルエムの何を補ったのか — 王の周りを固めていた側の設計
- メルエムはなぜ最強で生まれた? — 摂食交配の仕組み
- モラウの念能力は”戦場ごと作り替える” — 足止めを担当した煙の使い手
- キメラアントは絶滅していない — 討伐が終わったあとに残ったもの

コメント