キメラアントの階級は、働きぶりで上がるものではない。生まれた時点で決まっています。
兵隊は普通に生まれた個体。師団長は、女王が食べたものの質が良かったときに生まれます。護衛軍は、王を守るためだけに女王が段階的に産み分けた3体です。
※キメラアント編の展開に触れます(討伐まで含む)。
キメラアントの組織は3段で仕切られている
蟻の組織は上から王・護衛軍・師団長・兵隊、と段が付いている。兵隊はさらに兵隊長・戦闘兵・雑務兵に分かれます。
| 階級 | 生まれ方 | 役目 |
|---|---|---|
| 王(メルエム) | 女王が体の中で育てた「王を宿す卵」から出た、ただ1体 | 巣の頂点。ほかの階級とは別枠 |
| 王直属護衛軍 | 王の誕生に前後して、女王が3体を段階的に産み分けた | 王の身辺を守る |
| 師団長 | 女王が食べたものが良かったときに生まれる、質の高い上位個体 | 兵隊を束ねる中間層 |
| 兵隊(兵隊長・戦闘兵・雑務兵) | それ以外。普通に生まれた個体 | 巣を守り、食料を運ぶ |
この段に名前の知られた蟻を当てはめると分かりやすい。護衛軍はネフェルピトー・シャウアプフ・モントゥトゥユピーの3体。師団長には、他人の能力を借りるレオルなどがいる。兵隊層には、早くに念を得た小型のラモットがいます。
段の名前だけ見ると軍隊のように読める。ただし、上がった蟻は1体もいません。この段は入れ替わらない。
キメラアントの階級を分けているのは「生まれ方」
分ける基準は3つに集まる。女王が何を食べたか。何のために産んだか。その産みが女王に何を残したか。
女王には摂食交配という仕組みがある。食べた生物の特徴を、次に産む子へ映せる。強い生き物を食べれば強い子が生まれ、念を持つ人間を食べれば念に近い子が混じります。
女王が並みのものを食べて産んだ子は、兵隊になる。普通の食事から普通の子が出てくる。巣の外に出て働くのはこの層です。兵隊の中でも、戦闘兵を束ねる側に回るのが兵隊長。
質の良いものを続けて食べると、そのぶん質の高い子が生まれる。これが師団長です。数はそう多くない代わりに、1体ずつがすでに強い。師団長になるのに戦いで名を上げる必要はない。生まれた時点で、もう師団長になっています。
護衛軍だけは、生まれた経緯が別。王直属護衛軍と呼ばれるこの3体は、王を守るためだけに用意された枠です。まずネフェルピトーが生まれ、以後の兵の統率を任される。少し遅れてシャウアプフ、最後にモントゥトゥユピー。そして王メルエムは、出産日を待たずに生まれます。自力で女王の腹を突き破り、女王はその傷がもとで死にました。
護衛軍3体は、普通の蟻から続く階段の先ではありません。護衛軍と王の登場は、女王の命そのものと引き換えになっている。段の高さで並んでいるように見えて、3段はそれぞれ別の作られ方をしています。
キメラアントの階級は力では動かせない|下から上がった蟻はいない
蟻の巣で下から上がった蟻は、作中に出てきません。兵隊が働きで師団長になった場面もなければ、師団長が武功で護衛軍に昇格した場面もない。
護衛軍は3体しかいない。この枠を空けて別の蟻を入れる仕組みが、そもそも用意されていないからです。プフが死んだあとに補充されることもありません。
師団長も、女王が生きているあいだにだけ増える枠だ。女王が王の出産で死ぬので、後から追加される道もそこで閉じます。
つまり階級は、生まれた時点で完成している。あとから変えられない仕組みになっています。
軍隊の階級との違いはここに出る。人間の軍は昇進と降格で入れ替わる。蟻の階級は入れ替わらない。名前は「軍」の形をしていて、中身は生まれで固定された身分です。
それでも、生まれで与えられた役目から外れた個体は出てくる。そこから外れた4体を順に取り上げます。
キメラアントの階級を降りた蟻|生まれで決まった役目から外れた個体たち
生まれで固定された仕組みなのに、そこから外れた蟻が作中に少なくとも4体いる。ザザン、イカルゴ、ウェルフィン、そして王メルエムです。
ザザン|師団長のまま、自分を女王として立てようとした
サソリ型の師団長ザザン。師団長として生まれたので、階級の中の位置は動かしていない。ただしこの個体は、階級の枠の外側へ手を伸ばしました。
女王の死後、流星街に拠点を構え、自分の勢力を作ろうとする。使った念能力は「審美的転生注射(クイーンショット)」。尻尾の毒針で刺した相手をキメラアントに変え、自分の部下にします。自分の体を女王に近づける形態変化も、戦闘用の秘技として使っている(→ ザザンの念能力はなぜ自分に向いたのか)。
師団長として生まれた蟻が、階級の外に別の巣を作ろうとした例です。組織の側は動かないので、動いたのは自分の枠のほうだった。護衛軍・師団長・兵隊の3段が固定されていることが、この一件でむしろはっきりします。動くには階級の外へ出るしかない。
イカルゴ|兵隊長が敵と組んだ
イカルゴはタコ型の兵隊長です。ハギャ隊に所属し、人間の死体に入り込んで操る能力を持つ。師団長の下、戦闘兵の上にいる中間の位置だ。
ところがこの兵隊長は、キルアと組んで王宮に忍び込む側に回る(→ イカルゴの念能力は死体を借りる)。討伐隊の作戦を成立させた立役者の1体になっています。
階級は生まれで役目まで決めるはずなのに、イカルゴは与えられた役目と反対の側に立ち続けた。兵隊長の役目は戦闘兵をまとめて巣を守ることで、討伐隊に手を貸すことではない。それでもイカルゴは、王宮の内側の情報を人間側へ運んだ。ここは階級の定義の外側です。人間だった頃の記憶がそのまま残っているから、人間側の情のほうが蟻の階級より強く出た。
ウェルフィン|師団長が王に人間の名を告げた
オオカミ型の師団長ウェルフィン。女王軍のもとで師団長として生まれ、女王が死んだあとは王メルエムの下に付いた。人間だった頃はザイカハルという名で、NGLに住んでいました(→ キメラアントの記憶に残ったのは誰か)。
宮殿の地下でイカルゴに追い詰められ、降伏する。イカルゴから王への伝言役を任されたウェルフィンは、王メルエムに「コムギ」の名を告げます。この一言で、記憶を失っていた王は自分がいちばん会いたい相手を思い出しました。
師団長の役目は、王を頂点として支えることだ。それがこの一件では逆に働いている。ウェルフィンは、王を蟻の頂点としてではなく、コムギに会いたがっている1個体として扱いました。人間だった頃の記憶が残っている師団長でなければ、この選び方はできない。生まれの階級はそのまま、役目のほうが人間側に寄っています。
メルエム|階級の頂点に生まれたのに、頂点らしい振る舞いをやめた
いちばん大きな例外は、王自身です。
メルエムは階級の頂点として生まれた。女王が王を産むために命を落としたのだから、蟻の中で最も高い位置に置かれている(→ メルエムはなぜ最強で生まれた?)。生まれの時点で、この巣の全部を支配する立場にあります。
ところがコムギに出会ってから、王の判断が階級から離れていく。護衛軍3体の助言よりコムギとの対局を優先しました。最後は、毒に侵された自分の残り時間をコムギのそばで使うと決めます(→ 護衛軍3体はメルエムの何を補ったのか)。
メルエムは階級表では頂点に置かれる。ただし外れたのは、生まれた強さの順位ではなく「生まれた役目」のほうです。頂点に置かれた個体が、頂点らしい振る舞いをやめている。階級は生まれで決まる仕組みでありながら、その決め方に王自身が背きました。
護衛軍・師団長・兵隊は生まれで固定されて動けない。動く余地があったのは、その仕組みの頂点に立つ王のほうだけだった。階級を先に固めておいて、崩す役はいちばん上に背負わせている。
キメラアントの階級は、生まれで決まる仕組みが人間で崩れた
分類の全体像はきれいに立つ。3段は生まれ方で分けられ、上へ上がる道はない。それが原作の骨組みです。
一方で、掘り下げた4体はどれも生まれの通りに動いていない。ザザンは師団長のまま外に別の巣を作ろうとし、イカルゴとウェルフィンは自分の役目と逆の側に立った。王は自分が頂点であることを、途中で降りています。
共通しているのは、どこかで人間の要素が入っていることだ。ザザンは人間の姿に近い体で、自分の勢力を持とうとした。イカルゴとウェルフィンは人間だった頃の記憶を持ち越している。王は、コムギという1人の人間に触れて変わりました。
キメラアント編は、蟻の階級を紹介する編ではありません。生まれで決まる仕組みが、人間と交わるところで崩れていく話です。冨樫は階級の仕組みを先にきっちり立てておいて、それを崩す例を4つ用意した。分類の全体像を示したのは、崩し方を読ませるためだった。
まとめ|キメラアントの階級は何で決まったのか
- 蟻の階級は王・護衛軍・師団長・兵隊の3段(プラス王)で、上へ上がる道はない
- 分ける基準は「女王が何を食べたか」「何のために産んだか」「その産みが女王に何を残したか」の3つ
- 護衛軍は、王を守るためだけに女王が段階的に産み分けた3体で、後から補充できない
- 生まれの通りに動かなかった蟻は少なくとも4体(ザザン・イカルゴ・ウェルフィン・メルエム)
- 4体に共通するのは、人間の要素がどこかで入っていること。生まれで決まる仕組みが、人間と交わるところで崩れる
読み終えると、階級の整理そのものは前振りだったと分かる。生まれで決まる枠を内側から崩したのが王自身だった一点に、この編のいちばん深いところがあります。
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- キメラアントの記憶に残ったのは誰か — 蟻が人間から受け取ったものの側
- キメラアントは絶滅していない — 討伐のあとに何が残ったか


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