ハンターハンターの「食べる」場面|女王・メルエム・除念で移ったもの

ウェルフィンには、人間だったころの名前があります。ザイカハル。蟻として生まれ直したのに、前の名前が本人の中に残っている。

食べられて別の生き物になったのなら、元の中身は消えていいはずです。ところが作中の「食べる」場面を集めると、消えずに残ったもののほうが目につく。

とはいえ、食べれば何かが移るわけではない。何かが移ったのは、キメラアント編とアベンガネの除念にほぼ限られます。

※ハンター試験編・グリードアイランド編・キメラアント編・暗黒大陸の範囲に触れます。扱うのは単行本既刊分(〜39巻)まで。

食べても何も移らない場面から確かめる

食べる場面の多くは、ただの食事として通り過ぎます。

ハンター試験の二次試験は、食べることが課題そのものです。試験官のブハラは豚を70匹分たいらげる大食い。彼が満腹になるまでが制限時間でした(→ ハンター試験の試験官に基準はない)。それでも試験官に受験者の何かが移ったりはしない。

美食ハンターという肩書きも同じ。食べること自体が仕事で、受け渡しとは無関係です(→ ハンターの種類は数えられない)。

暗黒大陸にも「喰らう」設定はある。五大厄災のパプは、望みを叶える代わりに人間の生命を吸い取る。二つ名は「快楽と命の等価交換」(→ 暗黒大陸の五大厄災は“恵み”が罠)。吸い取った側が相手の特徴や能力を得た、という描写は無い。

奪って終わるか、腹が満ちて終わるか。どちらにしても、食べた側には何も残りません。

女王の摂食交配では、体の特徴と記憶が一緒に運ばれる

残る形が出てくるのは、キメラアントからです。

この種族は、他の生物を捕食して、その特徴を次の世代に反映させる。女王が食べた生き物の特徴が、生まれてくる子に出ます。これが摂食交配(→ キメラアントの女王は餌を5倍にして王を作った)。

運ばれるのは体の作りに限りません。食べられた人間の前世の記憶を受け継いだ個体がいる。ウェルフィンとイカルゴがそれで、2人は人間時代の仲間でした。ともにNGLで女王に食べられ、キメラアントとして生まれ直しています(→ キメラアントの記憶に残ったのは誰か)。

同じ1回の捕食で、体の特徴と記憶という別々のものが一緒に運ばれています。

王が生まれつき最強だったのは、女王が集めた強さが行き着いた先だからです(→ メルエムはなぜ最強で生まれた?)。強さが集まること自体は、この種族の設計どおり。それと同時に、もう1つ別のものが運ばれている。

キメラアントのコルトには、記憶がほとんど残らなかった

全員に同じだけ残ったわけではありません。

コルトに人間時代の記憶はほとんど残っていない。残ったのは、病弱で怖がりな妹を気づかう心だけでした。同じ女王から生まれながら、ウェルフィンとイカルゴには名前と過去が残った。コルトには心の一部しか残らない。

何がどれだけ残るかは、個体によって違う。食べれば必ず引き継がれる、とは限りません。同じばらつきは、メルエムの取り込みにも出てきます。

メルエムがプフとユピーから受け取ったもの

28巻 No.299「再生」。貧者の薔薇で倒れた王に、プフとユピーが自分の体を差し出す場面です。

プフは体の7分の6を献上したとされています。ユピーは自分の細胞を液体に変えて、王の口へ運んだ(→ 護衛軍3体はメルエムの何を補ったのか)。

移ったのは量に限りません。ユピーを取り込んだあとのメルエムは、翼を生やし、掌から砲撃を放つ。ユピーが持っていた能力を、そのまま使えるようになっています。

プフの鱗粉乃愛泉(スピリチュアルメッセージ)も一緒に移りました。王の変化を見たプフは「ユピーの翼や砲撃のみならず私のスピリチュアルメッセージも…!」と漏らします。

差し出した側も、自分の能力の行き先を分かっていた。ユピーは「我の能力…我のためにあらず!王にお渡しするためのものだったのだ!」と言い残しています。

ただし、どの捕食でも起きることではありません。メルエムはここまでに念能力者を何人も食べている。それでもこの2体以外から能力を受け取った描写は出てこない。

ファンの間には「この2体だけが一心同体になった特殊な例ではないか」という見方もあります。結論は割れたままです(→ メルエムの念能力は特質系じゃない?)。

アベンガネの念獣は、喰った念を抱えたまま離れない

もう1か所は除念です。アベンガネは、森の生き物の生命エネルギーと自分の念を合わせて、念を喰う念獣を出す。能力そのものの名前は作中で明かされていません(→ アベンガネの除念能力)。

効いてくるのは喰ったあと。念獣は消えず、アベンガネ自身にまとわりつき続けます。離れる条件は、元の術者が死ぬか、その念が本来の解除条件を満たすか(→ かかった念を解除する3つの方法)。強い念を喰うほど念獣は大きくなり、そのぶん重くのしかかる。

食べても、それで消えたことにはならない。喰った念は、形を変えて食べた側に残り続けます。

場面 食べた側 残ったもの
女王の摂食交配 キメラアントの女王 食べた生き物の特徴と、食べられた人間の記憶
プフとユピーの献上 メルエム ユピーの翼と砲撃/プフの鱗粉乃愛泉
除念の念獣 念を喰う念獣 喰った念
ハンター試験の二次試験 試験官 無し
美食ハンターの仕事 ハンター本人 無し
五大厄災のパプ パプ 無し

女王・メルエム・念獣の3つと、試験官・美食ハンター・パプの3つ。分けているのは食べた量でも相手の強さでもありません。前の3つでは、食べられた側が持っていたものが、形を保ったまま食べた側に残っています。除念の念獣が抱えた念も、アベンガネ本人から離れない。

冨樫は「食べる」場面に何を持たせたのか

3つの場面で、食べることは同じ働きをしている。

食べた側が強くなるのは確かです。ただ、そこでもう1つ動いているものがある。相手が持っていたものが、消えずに残る。冨樫はそこを揃えて描いているのではないか、と俺は思う。

もし食べることが力の吸収だけなら、ウェルフィンに人間の名前は要りません。コルトとの差も出ない。ユピーに「王にお渡しするため」と言わせる必要もない。念獣も、喰ったその場で消えればいい。

残したから、話が先へ続きます。ウェルフィンは人間だったころの記憶を抱えたまま、ジャイロを捜して流星街へ向かった(→ キメラアントは絶滅していない)。アベンガネは喰った念を抱えたまま、次の除念の仕事へ向かう。クロロのもとへ連れて行かれる様子は、No.201 の扉絵で描かれています。

食べる場面は、奪って終わる形では置かれていない。受け渡しの形で置かれています。

まとめ|ハンターハンターの「食べる」場面で移っているもの

  • 食べる場面の多くは、食べた側に何も残さない。二次試験・美食ハンター・パプはどれもこの形
  • 何かが移ったのは、キメラアント編とアベンガネの除念にほぼ限られる
  • 女王の摂食交配では、体の特徴と、食べられた人間の記憶が一緒に運ばれる
  • ただし残り方は個体によって違う。コルトに残ったのは、妹を気づかう心だけだった
  • メルエムはユピーの翼と砲撃、プフの鱗粉乃愛泉を受け取った。ほかの念能力者からは、同じように受け取った描写が無い

食べた側に残るのは、力に限りません。相手が持っていた特徴・記憶・能力が、形を変えて残り続ける。

ウェルフィンが最後まで人間の名前を持っていたのも、そのためだと思う。

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