トリックタワーは条件を渡し、地下室は渡さない|ハンターハンターの監禁

閉じ込められる場面の重さは、壁の厚さや見張りの数では決まっていません。

トリックタワーに入った受験者は、72時間で1階へ降りろと言い渡されます。何をすれば出られるかが、最初から本人に渡っている。

同じ作品には、その条件が一度も渡らない場所もある。外へ出る条件が渡っているかどうか。閉じ込める場面はここで2つに分かれます。

※ハンター試験編・グリードアイランド編・キメラアント編・会長選挙編・王位継承戦編に触れます。扱うのは単行本既刊分(〜39巻)まで。

トリックタワーの72時間は、最初に渡される条件だった

第三次試験の会場になったトリックタワー。管理しているのはブラックリストハンターのリッポーで、施設そのものは刑務所だ。

課題は最上階から1階への到達で、制限時間は72時間(→ ハンター試験の日数は10日ぶんしか確定していない)。

塔の中には複数の道がある。罠と仕掛けが置かれ、5人そろっての多数決で進む難ルートもそのひとつでした。

期限と経路。この2つが先に示されているので、読者は受験者が何を選ぶかを追えます。閉じ込めた側が隠していないのは、そこで選ばせたいものがあるからだ。

同じ塔の囚人には、まったく別の条件が渡っている

リッポーは5人の長期服役囚を試験に使いました。条件は、受験生を1時間足止めするごとに刑期を1年減らすというもの。

囚人の側にも、行動と出口がはっきり結び付けられている。ベンドットは懲役199年、ジョネスは懲役968年の刑を受けていました(→ ハンターハンターに警察はいるのに事件が片づかない)。

受験者にとっての出口は降りること、囚人にとっての出口は止めること。同じ建物の中で、立場の違う2組に別々の条件が示されている。

だから読者は、どちらの側の計算も追えます。囚人が何年ぶん稼ごうとしているのかまで見える。

船の王子にも条件はある。閉じているのは別の出口

ブラックホエール号の王子たちも、降りられない側だ。それでも条件は示されている。最後の1人になるまで生き残れ、という一点(→ 王位継承戦で王子は自分では戦えない)。

閉じ込め方そのものは厳しいほうだろう。王子の居住区は厳密に区切られていて、生活のすべてがその中で済むようになっています。全員が集まるのは日曜の晩餐会だけ。そこも入退館の時刻が王子ごとに決められている。

それでも勝利条件は消されていません。消えているのは、用意されていない出口のほうです。

カチョウとフウゲツが救命艇で船を離れようとしたとき、カチョウはその場で命を落としました(→ 2人セゾンと秘密の扉)。逃げることを禁じる条文の有無はハンターハンターの制度と抜け道が扱っています。ここで見たいのは、示された道だけが通れるという形だ。

自分の意思で入る場所と比べると、差がはっきりする。グリードアイランドは閉じ込めではありません。それでも作りは同じで、クリア条件も出口も最初から公開されている。指定ポケットカードを100種類そろえればクリア。抜けたければ離脱(リーブ)のカードか、港の通行チケットがある(→ グリードアイランドの攻略に念が要る理由)。

条件が渡っていない場面は、読者からも遠くなる

ここまでとは別の型があります。中の人物が何をしても、出口が動かない側だ。

ブラックホエール号の下の層がそれにあたる。層のあいだの壁は上の側からしか開きません(→ ブラックホエール号の内部は5階層)。下にいる人間は、開閉に関われない。

東ゴルトー共和国も近い形だ。近隣で唯一ミテネ連邦に属していない閉鎖国家で、総帥による恐怖政治が敷かれている。全国民が無理やり招集されることもあり、指組という仕組みで民衆どうしが監視させられてもいました(→ 東ゴルトーで蟻が新しく作ったものは2つだけ)。

ただし、求められることが無いわけではない。招集には応じさせる。監視もさせる。それでも、応じたところで国から出られるようにはならない。

行動と出口が切れているので、読者にも追いかけるものが残りません。下の層の乗客が何をするかを気にしながら読む場面は、作中に出てこない。

地下室だけが、させたいことがあるのに条件を渡していない

ゾルディック家の地下室だけは、この分け方に収まりません。

アルカは幼少期から地下室に厳重に隔離されていました。キルアが連れ出すまで外に出た描写はなく、出るための条件も本人に示されていない。

それでいて、家の側は閉じ込めたまま力を使わせています。おねだりのルールのいくつかは、ミルキたちが一般人や召使を犠牲にして調べたものでした(→ ナニカ(アルカ)のおねだりのルール)。

させたいことがあるのに、出口の条件は渡されていない。トリックタワーとも船とも違う形が、ここにある。

兄のキルアには、条件が渡っています。ハンター試験で失格になったあと実家へ戻り、拷問部屋で手枷と足枷をはめられ、鎖で吊られた。鎖は自分の腕力で千切った。

家を出るときも、父シルバが「絶対に仲間を裏切るな」という誓いを条件として出しました。鎖も試しの門も自力で開けられる相手に、家の側は別の形で制限をかけている(→ キルアはイルミの針が抜けても逃げる)。

つまりこの家は、条件を渡すかどうかを自分で選んでいます。キルアには渡し、アルカには渡さなかった。俺はここが気味の悪いところだと思う。

冨樫が閉じ込める場面に持たせている役割

ここまでの場面を、出口の条件が中の人物に渡っているかで整理します。

場面 出口の条件 中の人物に求められていること
トリックタワー(受験者) 72時間以内に1階へ 選んで進むこと
トリックタワー(服役囚) 1時間の足止めで1年の減刑 受験者を止めること
王位継承戦の船 最後の1人になる 生き残ること
グリードアイランド(対照例・自分の意思で入る) クリア・港・離脱のカード ゲームを進めること
ブラックホエール号の層の壁 渡されていない 何もない
東ゴルトー共和国 渡されていない 招集に応じること・互いを監視すること
ゾルディック家の地下室 渡されていない 願いを叶えること

上から3つは、閉じ込めた側が中の人物を動かしたい場面だ。条件が渡っているので、読者も「この人は何を選ぶのか」を追える。トリックタワーの多数決も、王子たちの駆け引きも、そこが読みどころになっています。

条件が渡っていない3つは、追いかけるものを持ちません。層の壁も東ゴルトーも、中の人間の行動が結果を変えない。だから読者の視線は、閉じ込められた側ではなく閉じ込めた側へ向かいます。

閉じ込める仕掛けは、読者に何を追わせるかを切り替えるために使い分けられている。俺にはそう読めます。

そして地下室は、そのどちらでもありません。させたいことがあるのに条件は渡されない。読者は、アルカが出られるかどうかを追えないまま、使われている場面だけを見せられる。あの場面が重く感じられるのは、追うものを奪われているからではないか。

まとめ|ハンターハンターの監禁はどう分かれているか

  • 分かれ目は壁の厚さではなく、外へ出る条件が中の人物に渡っているかどうか
  • トリックタワーは受験者に72時間と経路を、服役囚に1時間で1年の減刑を渡した。同じ建物で立場ごとに別の条件が示されている
  • 王位継承戦の船も勝利条件は示されている。閉じているのは、用意されていない出口のほう
  • 層の壁と東ゴルトーでは、求められることはあっても、応じたところで出口が開かない
  • ゾルディック家の地下室だけが例外。させたいことがあるのに、条件は渡されていない

条件が渡っている場面では、読者は中の人物の選択を追えます。渡っていない場面では、追うものが残らない。

閉じ込め方の違いは、読者の視線をどこへ置くかの違いでもありました。

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