ハンターハンターに回復役が少ないわけ|完全に治すほど代償が重い

粉砕された腕を、その場で治せる能力があります。クラピカの「癒す親指の鎖(ホーリーチェーン)」だ。ただし骨折を一瞬で治すには緋の眼が要る。絶対時間は1秒ごとに寿命を1時間削ります。

傷を完全に治せる能力には、どれもこれくらいの代償が付いている。負担が軽いのは、治しきらない能力だけだ。

ハンターハンターに回復役が少ないのは、この対応のせいだと俺は考えています。マチ・ピトー・クラピカ・アベンガネ・ナニカの5つを並べると、その事情が見えてくる。

※単行本34巻までの展開に触れます(天空闘技場編・ヨークシン編・キメラアント編・会長選挙編・王位継承戦編、およびヒソカ対クロロ)。

治す念能力と、その代償を対応させる

治すことに関わる能力は5つ。治せる範囲も、そのために失うものも、それぞれ違う。

能力 治せる範囲 失うもの
念糸縫合(マチ) 切れたものをつなぐだけ 術者側の代償は描かれていない
玩具修理者(ピトー) 死体まで直せる 使用中は完全な絶。念人形から20m以上離れられない
癒す親指の鎖(クラピカ) 骨折も一瞬で治る 緋の眼と絶対時間。1秒につき寿命1時間
除念(アベンガネ) 他人にかかった念を止める 喰わせた念を念獣として抱え続ける
おねだり(ナニカ) 願いの上限が描かれていない 別の誰かが同じ重さの代償を負う

失うものの重さはそろっていません。何も差し出していないものから、他人の命まで幅がある。

その幅は、治せる範囲とほぼ対応している。治せる範囲が広い能力ほど、失うものが重い。

治しきらない能力だけが、安く済んでいる

マチの「念糸縫合」は、性質を変えた念糸で切れた血管・神経・骨・筋肉・皮膚を縫い合わせる技。天空闘技場のカストロ戦で、もぎ取られたヒソカの両腕をつなぎ直しています。

このときマチが失ったものは見当たらない。絶になるとか寿命が縮むといった制約は、マチの側に描かれていません。

かわりに、治しきってはいない。縫うのは能力でも、そこから先の再生は本人の回復力任せ。だからマチはヒソカに、組織がくっつくまで無理をするなと伝えています(→ マチの念能力「念糸縫合」は治療ではない)。

得たものは、つなぐところまで。失うものが小さいのは、途中までしかやっていないからだ。

玩具修理者は、治療のあいだ術者を止める

ピトーの「玩具修理者(ドクターブライス)」は、治しきるほうの能力です。外科医の姿をした念人形で体を直し、死体さえ修復できる。

はっきり描かれているのは4回。カイトの死体と、メルエムが軍儀の賭けで自ら引きちぎった腕。さらに、討伐隊の侵入でネテロに吹き飛ばされたあとの自分の傷と、コムギも直しています。治せる範囲でも完成度でも、5つの中では上のほうに見える。

失うのは、術者の身動きだ。使用中のピトーは完全な絶になり、念人形から20m以上は離れられません(→ ネフェルピトーの念能力に攻撃技は一つもない)。

コムギを治していた場面で失ったのは、王を守る役目そのものだ。護衛軍でも最強クラスの1体が、治療のあいだだけ戦力から抜ける。そこへゴンが来ています。得たのはコムギの命ひとつ(→ コムギはメルエムと何が違ったか)。

癒す親指の鎖は、寿命で払う

クラピカの癒す親指の鎖は、自己治癒力を引き上げる強化系の鎖。ウボォーギン戦で粉砕された左腕を即座に治し、王位継承戦編ではビルの治療にも使っています。

ただしクラピカは具現化系。骨折を一瞬で治すほど働かせるには、緋の眼で特質系に変わる必要がある。全系統を100%引き出す絶対時間が要ります。

その絶対時間の代償が、発動1秒につき寿命1時間。治療に使った秒数が、そのまま残りの人生から引かれます(→ クラピカの寿命はあと何年?)。

ピトーとの違いは、失ったものが治療のあとも戻らない点だ。絶が解ければピトーはまた動ける。クラピカの寿命は戻りません。

除念とおねだりは、治療の外まで払いが延びる

さらに外へ出るのがアベンガネの除念。森で儀式を行い、念を喰う念獣を具現化する。その念獣に、他人にかかった念を喰わせます。

アベンガネが失うものは、そのあとに出てくる。喰われた念は念獣の姿でそばに残り、元の術者が死ぬか解除条件が満たされるまで離れません。終わる日は決まっていない(→ アベンガネの除念能力)。

いちばん外まで出るのがナニカのおねだり。瀕死のゴンを完治させた力で、叶う願いの上限は描かれていません。

そのかわり、代償を負うのは願った本人ではなく別の誰かだ。おねだりを4回続けて断ると、断った人とその人が最も愛する人が死ぬ。ある執事の願いでは、確認できるだけで67人が亡くなっています(→ ナニカ(アルカ)のおねだりのルール)。

ただしゴンのときは、キルアだけに許された「命令」だったので誰も代償を負っていません。キルア以外が同じ願いをすれば、そこで代償が出る。免れているのはキルア1人だけで、能力そのものが軽いわけではない。

治す力が強いほど、負担は術者の外へ出て他人に回る。しかもナニカの力が念能力なのかどうかは、作中で確定していません。

回復役が少ないのは、代償が治療の外へはみ出すから

並べた5つは、同じ向きを向いている。しっかり治せる能力ほど、失うものが治療の中に収まらない。

マチは治しきらないぶん、何も失っていません。ピトーは治療しているあいだだけ止まる。クラピカは寿命が減り、アベンガネは終わりの決まらない同居を抱える。ナニカにいたっては、代償を負うのが他人です。

制約と誓約の考え方どおりの並びでもある。強い効果には重い縛りが要るという原則が、治すことにも当てはまります(→ 制約と誓約の仕組み)。

そう考えると、回復役という立ち位置が育たない理由も分かる。仲間の後ろで治し続ける役目は、術者の身動きか寿命か生活か、どれかを毎回削っていくからです。誰かを治すたび、その人が少しずつ抜けていく。

他人を生き返らせる能力も描かれていません。ヒソカはクロロ戦で窒息死したあと、死後に強まる自分の念で戻っている。玩具修理者に直されたカイトも、生き返ったのではなく別の体に生まれ直した(→ カイトの転生は同じ人物なのか)。

冨樫がそう決めたと語った場面はありません。ただ、治す能力が5つとも同じ向きで作られているのは、たまたまとは考えにくい。回復が弱く設定されているのではなく、失うものが大きく設定されているだけだと俺は見ています。

まとめ|回復役が少ない理由

  • マチの念糸縫合は術者側の代償が描かれていない。かわりに縫うだけで、再生は本人の回復力任せ
  • ピトーの玩具修理者は死体まで直せるが、使用中は完全な絶で念人形から20m以上離れられない
  • クラピカの癒す親指の鎖は骨折を一瞬で治す。ただし絶対時間の代償で、1秒につき寿命が1時間縮む
  • アベンガネの除念は喰わせた念を念獣として抱え続け、ナニカのおねだりは別の誰かに代償を負わせる
  • しっかり治せる能力ほど、失うものが治療の外へ出る。だから治し続ける役目が成立しない

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