オイト王妃は借り物だけで戦っている|持たないまま降りたい側

王位継承戦でオイトが使ったのは、護衛と、他人から奪われた念能力。そして、その副作用で開いた精孔(しょうこう)です。どれ1つとして、自分の持ち物ではありません。

第8王妃で序列は最下位。貧しい家の出で、後ろ盾になる家柄もない。それでも第14王子ワブルの陣営は、継承戦のあいだ何度も動いています。

借りたものだけで戦う人物を、冨樫はこの位置に置いた。その意味を、場面ごとに追ってみます。

※王位継承戦編の展開に触れます。単行本39巻までの範囲で書いています。

オイト王妃が継承戦で動いた場面

継承戦でオイトが動いたのは、大きく4つの場面です。

場面 オイトがしたこと
護衛の採用 公募に応募してきたクラピカたちを面接し、雇った
部屋の偵察 借りた念能力で他の王子の部屋を探った
私設兵への対応 送り込まれてきた兵に、王妃としての証言と芝居で対抗した
念の会得 借りた能力を乗せられた副作用で精孔が開いた

自分の力で押し切った場面が1つもない。無力だからではなく、そういう位置に置かれているのだと思います。

オイトの念能力より先に、借りた能力が動いていた

いちばん分かりやすいのが偵察の場面だ。

クラピカは「奪う人差し指の鎖(スチールチェーン)」で「裏窓(リトルアイ)」を手に入れていた。守護霊獣に操られて暴れた同僚のサイールドを止めたときに奪ったものです。この使用権をオイトに貸している。

借りたオイトは、船の配管図を見ながら虫を動かし、他の部屋を探った。念を持たない王妃が、他人から奪われた能力の又貸しで情報を取りに行っている。

この能力は途中で強制解除されます。動かしていた虫が食べられたからだ。借り物なので、こちらの都合では守れない。

貸すクラピカの側は、そのあいだ寿命を削り続けている(→ 特質系には後からなれる)。偵察の成果は、他人の命の上に乗っていた(貸与と絶対時間の関係は → クラピカの寿命はあと何年?)。

オイトの念は、自分から始めたものではない

念を身につけたのも継承戦のさなかだった。ただし始まりは志願ではない。

借りた能力を念のない人に乗せた副作用で、精孔が開いています。順番としては、能力を借りるほうが先だ。

目覚めたあとは、本人が習得を希望してクラピカの指導を受けている。それでも発はまだ出ていない。制約や誓約で強さを買った描写もありません。戦う道具という意味では、いまも何も持っていない。

それでも念を得た意味は小さくない。他の陣営の動きが見える側へ回ったからです。

勝ちではなく離脱を望んでいる陣営

もう1つ、この陣営には他と違う点がある。

王位継承戦は最後の1人になるまで続く決まりです。王子は自分から仕掛ければ王族殺しとして極刑になる。実際に動くのは護衛や私設兵のほうだ(規定は → 王位継承戦で王子は自分では戦えない)。

そのうえでオイトが望んでいるのは、王位ではなく離脱でした。ワブルの命を最優先に置き、この戦いから降りたいと考えている。

降りたい側は他にもいる。カチョウとフウゲツは船からの脱出を試みた。のちの和平案では、第5王子ツベッパの陣営も離脱側に並びました。

それでもオイトの位置は違う。戦う力を1つも持たないまま、いちばん下から降りたいと言っている。ワブル自身は乳児で、望むことも降りることもできません。

冨樫はなぜ、持たない王妃を動かす側にしたのか

借り物でしか動けない人物を、なぜここに置いたのか。俺は、この陣営で起きることが1つ残らず見えるようになるからだと考えています。

持っている側なら、こうはならない。私設兵を持てるのは第1王子から第9王子までで、第14王子ワブルには1人も付きません。付いているのは、開始の時点で送り込まれた監視兵7人のほうだ(陣営ごとの差は → 王位継承戦の14王子は母の序列で読む)。

だからオイトが何かをするたび、誰から借りたのかが必ず見えます。偵察は他人の寿命の上に、護衛は公募という制度の上に、念は他人の能力の副作用の上に乗っている。上位の陣営では隠れてしまうものが、この陣営では毎回表に出る。

借り物には期限もある。裏窓は虫を1匹食べられただけで消えました。持たない側の陣営では、手にしたものが何度も途中で失われる。

雇い主が最下位でなければ成立しない場面もある。クラピカが第14王子の護衛に入れたこと自体だ。護衛の公募を出したのは14人の王子のうち6人だけでした(→ クラピカの護衛5人は狙った陣営に入れなかった)。

外から来た人間が入り込める隙は、持たない側にしかなかった。物語をこの陣営から動かすために、雇い主は最下位である必要があったと読めます。

まとめ|オイト王妃が担っている役割

  • オイトは第8王妃で序列は最下位。貧しい家の出で、後ろ盾になる家柄も持っていない
  • 継承戦で動いた4場面はどれも借り物で成り立つ。雇った護衛、他人から奪われた念能力、その副作用で開いた精孔
  • 借りた「裏窓(リトルアイ)」は虫を食べられて強制解除された。自分の持ち物ではないので守れない
  • 望んでいるのは王位ではなく離脱。降りたい側は他にもいるが、戦う力を持たないまま降りたいと言っているのはこの陣営です
  • 借り物でしか動けないぶん、この陣営では誰から何を借りたのかが毎回表に出る

強さで比べれば、この王妃はいちばん下にいる。それでも物語が動く場面には、たいてい関わっている。

何も持っていないから、周りから借りるしかない。借りたものは、いつまでも手元にあるとは限らない。途中で消えることもある。冨樫はその不安定さごと、この王妃に引き受けさせました。

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