全員殺すと繰り返した第1王子が、数コマ後には兵の配置換えを決めている。間に入っているのは、私設兵隊長バルサミルコの進言でした。
ベンジャミンは怒りっぽい人物として描かれる。それでも陣営は暴走しないまま動き続けている。材料と筋道を並べる役がバルサミルコに寄っていて、王子はそれを受けて方針を変える。この役割分担が、陣営の回り方そのものになっているのではないか。
※王位継承戦編に触れます。扱うのは単行本既刊分(〜39巻)まで。
バルサミルコの念能力は系統も能力名も出てこない
まず立場から。バルサミルコはベンジャミンの私設兵をまとめる隊長で、階級は資料では曹長とされます。
念能力は判明していません。隊長でありながら、系統も能力名も出てきていない。
俺には、この空欄は描く必要がなかっただけに思えます。この人が場面でしていることは、殴ることではない。
激昂した王子を止めたのは、腕ではなかった
No.363「念獣」の場面が分かりやすい。
守護霊獣の存在が明らかになった直後、ベンジャミンは殺す、今すぐ殺す、全員殺す、と繰り返します。下船まで待てない、第4王子を連れてこい、と。
ここでバルサミルコが理由を並べます。ベンジャミンには念獣が見えないので、単独で動くのは危険だという点。クラピカの緊急コールで念獣が全王子と全警護人の共通認識になり、こちらの優位が消えた。そしてハンターがいる。
ベンジャミンはしぶしぶ納得し、方針を切り替えた。出てきたのが、私設兵を各王子の王室警護兵と入れ替える手でした。
この入れ替えができるのは、第1王子という序列のおかげではありません。軍事最高副顧問という役職があるので、自分の私設兵を正式な国王軍兵として配属できる。付いた先は、同じ母から生まれた第4王子ツェリードニヒを除く各王子です(→ 王位継承戦の14王子は母の序列で読む)。
殺すと叫んだところから、各王子に自分の兵を置く手へ。切り替えの間に入っているのが、理由を並べた進言でした。
バルサミルコは部下の推理も同じやり方で崩す
進言の相手は王子だけではない。
No.388「思案」からの流れで、私設兵カンジドルが推理を出します。シカクの自死は第9王子ハルケンブルグの能力によるもの。交換条件による自殺の強要ではないか、と。
バルサミルコはこれを3つの理由で否定します。部屋の位置の関係で、下位王子まで巻き込むことになる。自殺を強要できるなら、他の王子の暗殺を強要するほうが理にかなう点。そして念獣は、王子どうしの直接の殺害を避けるとみられる。
そのうえで能力の正体を、部下のオーラも借りて発動するものだと見立てる。対策も同じ流れで出てきます。私設兵の不審死を理由に王子を拘束し、臣下と分断して能力を封じる。
その筋道のとおりに、陣営はハルケンブルグの拘束へ動いた。ベンジャミン本人の同意や命令は、確認できる範囲では出てきません。それでも策は実行されている。
3つの場面で、バルサミルコがしていることは同じ形
| 場面 | 出発点 | バルサミルコがしたこと | 動いた先 |
|---|---|---|---|
| No.363「念獣」 | ベンジャミンが全員殺すと激昂 | 危険の理由を並べる | 私設兵を各王子の警護兵と入れ替え |
| No.388〜389「思案」「呪詛」 | 部下カンジドルの推理 | 否定の理由を3つ並べ、能力の正体を見立てる | ハルケンブルグの拘束 |
| No.402「手紙」 | ハルケンブルグ陣営への手 | 念ではなく人工ウイルスで打つ手を動かす | 暗殺の仕掛けへ |
上2つは形がそろっている。理由を数え上げてから、次の手に移る。相手が王子でも部下でも変わりません。
3行目だけ、上2つと違って並べる場面そのものが描かれません。手だけが動く。私設兵を念能力者でそろえた陣営が選んだのは、念ではない通常の手段でした。
ベンジャミンは方針を変えられる王子として描かれている
ここで気になるのは、王子がどう描かれているかです。
ベンジャミンは「自分で考えない王子」ではありません。警護兵の入れ替えを命じたのは本人。監視役をビンセントからバビマイナへ差し替えたときは、2人で決めている。陣営が動くとき、王子が抜けているわけではない。
差が出るのは、最初に出す答えです。激昂したベンジャミンが口にするのは、殺すという一手だけ。そこから各王子に兵を置く手までは距離がある。
その距離を埋めているのがバルサミルコの進言だと読めます。しかも王子は「しぶしぶ」納得している。渋いまま方針だけ変わるのが、この陣営の型。
根拠を順に並べられれば、激昂していても方針を変えられる。ベンジャミンの強さはそこにあるのではないか。バルサミルコ自身も、理詰めで順を追って情報を出せば的確に判断する王子だと評しているとされます。
だから陣営には、理由を並べる役が要る。星を継ぐものは私設兵の死を前提にした能力です。そう思えば、兵を減らさずに済む判断を出せる人間の価値はなおさら高い(→ ベンジャミンの念能力は補充が効かない)。
王子の最初の答えと、実行できる手のあいだ。バルサミルコが置かれているのは、そこを埋めるためだと読めます。
まとめ|バルサミルコはベンジャミン陣営で何をしているか
- バルサミルコはベンジャミンの私設兵隊長。階級は資料では曹長とされ、念能力は系統も能力名も判明していない
- No.363 では、全員殺すと繰り返す王子に理由を並べ、私設兵を各王子の警護兵と入れ替える手へ切り替えさせた
- 入れ替えができるのは序列ではなく、軍事最高副顧問という役職があるため
- No.388〜389 では部下の推理を3つの理由で否定し、ハルケンブルグの能力を見立てて拘束の策まで組んだ
- ここで見た3つの場面では、進言を退けて王子が自分の案を通した形にはなっていない
理由を並べる役と、それを受けて命令に変える役。ベンジャミン陣営が暴走せずに動いているのは、この2つが分かれているからだと読めます。
第1王子の強さは、自分で答えを出す速さではない。渋々でも方針を変えられることです。
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