シャウアプフは、王に隠れてコムギを消しに動いた。王のためだ、というのが本人の理屈です。背いた相手のために背く。ここだけ取り出すと筋が通りません。
ところが作中の背きには、どれも特定の1人が絡んでいる。その相手が命令を出した本人か、命令の外にいる人かで、形は2つに割れます。
命令には、上官が出した指示だけでなく、仕える相手が示した意思も含まれる。プフが背いたのは王の明示の命令ではなく、王の望みのほうでした。
※ゾルディック家編・会長選挙編・キメラアント編に触れます。扱うのは単行本既刊分(〜39巻)まで。
プフは、王に隠れて王の望みを消しに動いた
キメラアント編の終盤、記憶を失ったメルエムの前でプフがしたのは隠蔽でした。コムギに会わせれば記憶が戻る。戻れば王は人間の少女に引き戻される。
やり方は徹底しています。細胞レベルでコムギになりすまし、同僚のピトーまで騙して排除に動いた(→ プフの念能力を護衛軍3体で比較)。
ここでプフが背いたのは王の望みのほうです。「コムギを治せ」という指示の宛先はピトーだった。プフ本人に王からの命令が下っていたわけではない。
それでもプフは、自分は王のために動いていると振る舞い続ける。選んだ相手は、背いた相手と同じ人物だ。もっとも、プフが守ろうとしたのは目の前の王というより、人間に引き戻されない王のほうでした。護衛軍が王の空白を埋める役だったと読めることを思うと、この動き方も納得できる(→ 護衛軍3体はメルエムの何を補ったのか)。
カナリアとキルアが向いた先は、命令の宛先ではない人だった
もう1つの形では、向いた先が命令の外にあります。
ゾルディック家の執事見習いカナリアは、試しの門を抜けた先の道でゴンの前に立ちはだかった。役目どおりゴンを叩きのめし、それでも引かないゴンに折れる。涙を流しながら、キルアを助けてほしいと告げて通した。
カナリアが向いた先はキルアだ。ゴンでもなく、役目を与えている家でもない。この直後、カナリアはキキョウに撃たれています(→ ゾルディック家の執事で一番自由に動いたのはカナリア)。
ゾルディック家では、キルア本人も同じことをしています。会長選挙の最中、シルバの命令に背いてアルカを連れ出した。「お前達を外に出す事は出来ない」と言われたうえで、家族を敵に回す覚悟でゴンを助けに行った側です(→ ナニカ(アルカ)のおねだりのルール)。
面白いのは、そのシルバがキルアに「絶対に仲間を裏切るな」と誓わせていることです。命令に背いて向かった先が、同じ人物の与えた誓いと重なっている。
背いた3人は、誰も別のどこかに付いていない
| 背いた人物 | 背いた相手 | 向いた先 |
|---|---|---|
| プフ | メルエム | メルエム |
| カナリア | ゾルディック家(門番の役目) | キルア |
| キルア | シルバ | ゴン |
カナリアもキルアも、ゾルディック家を離れて別のどこかに付いてはいない。プフは最後まで護衛軍のままです。作中の背きは、組織から抜けることとは別に描かれています(→ ハンターハンターの組織に入る3つの道)。
割れるのは、背いた相手と向いた先の関係だけ。プフは両方が同じ人物で、カナリアとキルアは別人になる。
ユピーは、王を選んだ場面と交戦相手を選んだ場面の両方にいる
この2つに収まらない人物が2人います。まずはユピーから。
隠蔽の場面では、ユピーもコムギに会わせることに賛成していない。ここまではプフと同じ向きです。
ところが同じユピーが、ナックルとモラウを見逃してもいます。護衛軍として致命的な背きで、選んだのはさっきまで戦っていた相手のほうだった(→ ユピーの念能力は戦いながら進化する)。
2つの場面は、置かれた状況が違います。ユピーが隠蔽に加わったのは戦いの外で、見逃しは交戦の最中に起きている。同じ人物が両方に出てくる以上、この2つの形は人物に貼るラベルではない。場面ごとの選択として見るしかありません。
ウェルフィンは誰も選ばないまま、いちばん大きく計画を壊した
もう1人はウェルフィン。死を覚悟して、王の尋問の前に立ちます。
そこでプフが隠したがっていた秘密と、イカルゴから受けた伝言を思い出した。そして自分が助かるために口にしたのが、あの一言でした。「コムギ・・・?」
これでメルエムはすべてを思い出します。プフが積み上げた隠蔽は、ここで完全に壊れた。
ウェルフィンは誰かを守ろうとしたわけではない。王の尋問には従っていて、プフから口止めされた場面も描かれていない(→ ウェルフィンの念能力ミサイルマンは尋問の道具)。王の記憶が戻ることも、プフの企てが壊れることも狙いの外だった。あの一言が、結果としていちばん大きく計画を壊している。
いちばん効いた背きが、そこまでの結果を狙っていない人物に渡されている。周到に組み立てたプフの隠蔽を、その場しのぎの一言が崩した。キメラアント編の終わり方そのものが、この並べ方に出ている。俺が面白いと思うのはそこです。
まとめ|ハンターハンターの背きで選ばれた相手
- 命令に従わなかった場面では、背いた側が特定の1人に向いている。その相手が誰かで形が2つに割れる
- 1つ目はプフ。背いた相手と向いた先が同じで、王のために王の望みを壊している
- 2つ目はカナリアとキルア。向いた先は、命令の宛先の外にいるキルアとゴンだった
- 3人とも別の組織に付いていない。作中の背きは、抜けることとは切り離して描かれている
- ユピーは2つの場面で逆の側に立ち、ウェルフィンは誰も選ばないまま最大の結果を出した
命令の重さが、そのまま従うかどうかを決めているわけではない。作中の背きは組織との争いとしてではなく、誰か1人との間の話として置かれている。
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- ゾルディック家の執事で一番自由に動いたのはカナリア — 門を抜けた先の場面の前後
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