ハンターハンターの秘密|残っているのは、本人がもう訂正できない話だけ

墓の前に、死んだはずの男が現れます。驚いたのは1人だけ。もう1人は口の前に指を立てて、黙っているよう合図する。

ゴトーの墓の場面です。32巻 No.339「静寂」。立っていたのはゴトーの姿をしたキリコで、本人ではありません。

読者はこの死を、12話前から知っています。キルアはまだ知らない。

こういう場面は、ほかにもいくつもある。読者が先に答えを持ち、登場人物が遅れて受け取る。その遅れがどこまで続くのかを、秘密ごとに追ってみます。

※ヨークシン編・グリードアイランド編・キメラアント編・会長選挙編・王位継承戦編に触れます。扱うのは単行本既刊分(〜39巻)まで。

自分の秘密を抱えた人物は、この節で拾った場面ではどれも見抜かれている

まず、本人が自分について伏せている例から。

ビスケは本当の姿を隠している。実年齢57歳。少女の見た目の下に、鍛え抜かれた肉体がある。本来の姿を滅多に見せないのは切り札を最後まで取っておくため、というのが本人の言い分です。

この秘密は14巻 No.137 で破られます。見抜いたのはビノールト。髪を切って食べることで相手を知る能力の持ち主だ。ビスケの髪から実年齢と肉体を読み取り、その場で戦慄している。

伏せた期間の長さも、相手の格も関係なかった。能力ひとつで見抜かれた。

そのビスケが、今度は見抜く側に回ります。

ヨークシン編で、幻影旅団はクロロの占いをもとに動いていた。ヒソカは薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)で自分の予言を書き換えた。旅団に渡したのは偽の内容です(→ ヒソカの念能力は、なぜ“安く強い”のか)。旅団の側が書き換えに気づく場面は、原作では描かれていません。

そのヒソカがグリードアイランドで、クロロの名前を使っていた理由を説明します。旅団から接触があると思ったから、という中身だ。

ビスケはそれを嘘だと言い当てます。念字で書いて、ゴンたちに伝えた。

旅団の側では気づく場面が描かれていない相手を、島で出会ったばかりの1人が言い当てている。用意の周到さが効いていないのは、ビスケのときと同じです。

伏せられたまま続いている秘密は、この記事で拾えた範囲では2つ

伏せられたまま続いている秘密もあります。ただし、この記事で拾えたのは2つだけだ。

1つ目はゴトーの死。ゴトーは31巻 No.327 でヒソカに首を切られて死にました(→ ゴトーの念能力はヒソカに避けさせている)。

そのあとの墓の場面が、冒頭の No.339 です。キルアはその場におらず、当時はアルカと旅をしていた。ゴトーの姿で現れたキリコに驚いたのはアマネで、カナリアはそれを見て「しーっ」の仕草をする(→ ハンターハンターの変装・なりすまし)。

キルアがこの死を知る場面は、いまのところ描かれていません。誰が伏せると決めたのかも、作中には書かれていない。分かっているのは、屋敷に残った側が誰もキルアに伝えていない、というところまでです。

2つ目がカチョウとフウゲツ。カチョウの守護霊獣「2人セゾン(キミガイナイ)」には決まりがあります。2人のうちどちらかが死ぬと、霊獣がその者の姿になる。そしてもう一方が死ぬまで、そばで守り続ける(→ 2人セゾンと秘密の扉)。

だからフウゲツのそばにいるカチョウは、念のほうだ。フウゲツは霊獣と会話し、行動を共にしています。

フウゲツが姉の死を理解しているかどうかは、作中で明言されていません。読者の側でも読みが割れる。ただし霊獣のほうは、姉の姿のまま訂正しない。

この2つには同じ形があるように見えます。ゴトーは死んでいて、カチョウも死んでいる。伏せられている当人が、もう自分の口で訂正できない。

ビスケもヒソカも、自分で伏せて自分で守ろうとした。だから破られた。ゴトーとカチョウの秘密が続くのは、守る作業も訂正する作業も当人の手を離れているからではないか。

ゴンが知らされた秘密だけ、向きが逆になっている

例外がもう1つあります。ゴンが知った、カイトの死だ。

読者は19巻 No.199 で知っています。ネフェルピトーの膝の上に、カイトの首が乗せられていた。ゴンはその場にいない。キルアに気絶させられ、運び出されたあとだからです。

ゴンが知るのは29巻 No.307「喪失」。しかも告げたのはピトー本人でした。カイトはもう死んでいる、魂はここにない、元には戻せない。そうゴンに伝えています。

ここまでの4人と向きが逆だ。ビスケとヒソカは第三者に見抜かれた。ゴトーとカチョウの秘密は続いている。ゴンの場合は、伏せていた当人が自分から明かしています。

読者が答えを持ったまま待った長さは、巻数にして10巻ぶん。この間ゴンはカイトを治せると信じて動き続けます(→ カイトの転生は同じ人物なのか)。

そして知った瞬間に、ゴンは止まらなくなる。物語の大きな転換点の1つがここです。

読者も一緒に知らされる秘密は、働き方が変わる

読者が先に知らされない場面も見ておきます。

キルアが21巻 No.219「覚醒」で自分の頭から針を抜く場面。イルミの針が入っていたことは、読者もここで初めて知らされます(→ キルアはイルミの針が抜けても逃げる)。

ネテロが体内に貧者の薔薇を仕込んでいたことも同じだ。メルエムも読者も、直前まで知らされません。

しかもメルエムが爆発の前にこの仕掛けに気づく場面は、描かれていません。自分について伏せた秘密が、見抜かれないまま最後の場面まで残った例です。見抜かれるという形は、どこにでも当てはまるものではない。

この2つは驚きとして働きます。読んでいる側が答えを持っていないので、登場人物と同じ速さで受け取ることになる。

読者だけが先に知っている場面では、驚きが起きない。代わりに出てくるのは、いつ知るのかという待ち時間のほうだ。ヒソカがゴンたちのチームに入ったまま話が進む場面。ここに落ち着かなさがあるとすれば、出どころはこれだと思います(→ ヒソカが幻影旅団に入った理由)。

同じ「隠された事実」でも、読者に先に渡すかどうかで働き方が変わる。冨樫はこの2つを使い分けているように見えます。

遅れて知ることが、その人物に何をさせたか

ここまでの秘密を、伏せた側から整理します。

伏せた側 誰に伏せたか 見抜かれたか そのあと
ヒソカ本人 幻影旅団 旅団が気づく場面は描かれていない
ビスケ本人 ビノールトたち ビノールトが見抜く 武闘家として挑み直す
屋敷に残った側 キルア キルアが知る場面はまだ描かれていない
姉の姿をした念 フウゲツ 作中で明言されていない
ピトー本人 ゴン 本人が自分から明かす 物語の向きが変わる
ネテロ本人 メルエム 気づく場面は描かれていない

知ったあとに話の流れが大きく動いたのは、ゴンの場合だけです。ほかは、見抜かれても流れがそのまま続いている。

秘密そのものは、話を動かす仕掛けになっていないと俺は読んでいます。動くかどうかは、知った人物がその事実に何を賭けていたかで決まる。

ゴンはカイトを治すことに全部を賭けていた。だから答えが出た瞬間に壊れます。ビノールトはビスケの正体に何も賭けていないので、知っても挑み直すだけで終わった。

伏せる長さも、同じところで決まっているように見えます。ビスケの正体は14巻で破られ、ゴトーの死は32巻から今も続いている。長さを分けているのは、伏せられている当人がまだ口をきけるかどうかのほうだ。

当人が話の中にいれば、いつか自分で言うか、誰かに見抜かれる。いなければ、訂正する者がいないので残ってしまう。ネテロのような例外もあるので言い切れない。ただ、上の表に並べた6つは、おおむねこの形に収まりました。

まとめ|ハンターハンターで秘密はどこまで続くのか

  • 自分について伏せた人物は、ネテロを除く5つの場面ではどれも見抜かれている。ビスケはビノールトに、ヒソカはビスケに見抜かれた
  • 伏せられたまま続いているのはゴトーの死とカチョウの死。どちらも、当人がもう自分で訂正できない
  • ゴンだけは向きが逆で、伏せていたピトー本人の口から知らされる。読者が答えを持って待った長さは10巻ぶん
  • 知ったあとに話の流れが動いたのはゴンだけ。秘密そのものではなく、知った側が何を賭けていたかで決まる
  • ネテロの仕込みだけは、メルエムが気づく場面が描かれていない。自分で伏せた秘密が必ず破られるわけではない

秘密が破られるかどうかを分けているのは、隠し方の巧さではなさそうです。伏せられている当人が、まだ自分の口で何か言えるかどうか。

言える側の秘密は、誰かに見抜かれるか、本人が明かすかのどちらかで閉じていきます。言えなくなった側の秘密だけが、訂正されないまま形を保ち続ける。

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