ハンターハンターの主人公交代はヨークシン編で起きていた|視点が動く規則

ヨークシン編でゴンとキルアがやっていたのは、オークションの落札資金を稼ぐこと。話を前へ押していたのはクラピカです。

5つ目の編で、物語はもうゴンの目的では動いていません。途中から群像劇になった、という感想をよく見かけます。その「途中」は、思われているよりずっと早い。

編ごとに誰の目的が話を動かしたかを数えると、視点の預け先に規則が見えてきます。

※ヨークシン編から王位継承戦編までの展開と、連載最新話(No.414)に触れます。

視点の主は「誰の目的が話を動かしたか」で決まる

誰が主人公に見えるかは、読む人によって割れる。出番の多さで数えるか、感情移入の先で数えるかでも変わります。

数えるのは1点だけ。その編で目的を持ち、その目的のせいで話が進んだ人物は誰か。登場時間の長さは関係ない。動機が物語を押したかどうかだけで見ます。

この基準なら、印象に左右されずに割り振れる。

ハンターハンターの視点は編ごとにこう動いている

話を動かした目的 目的の持ち主
ハンター試験 父に会う ゴン
ゾルディック家 キルアを連れ戻す ゴン
天空闘技場 ヒソカに借りを返す ゴン
くじら島 父の遺したものを受け取る ゴン
ヨークシン 旅団に復讐する クラピカ
グリードアイランド 父の手がかりをたどる ゴン
キメラアント(前半) カイトを取り戻す ゴン
キメラアント(終盤) 残った時間を使い切る メルエムとコムギ
会長選挙 ゴンを助ける キルア
王位継承戦 王子を守り、緋の眼を回収する クラピカ

こうして見ると、交代は最近の話ではない。5つ目の編で1度目が起きています。

ヨークシン編のゴンとキルアにも、自分の目的はある。グリードアイランドを落札する資金を作ることです。ただし編の中心にある対立を作っているのはクラピカ。旅団との衝突は、緋の眼をめぐる事情から始まっている(→ クラピカの念能力は“二段構え”)。

交代は一方通行ではない。行き来している

面白いのは、そのあとゴンに戻ること。

グリードアイランド編は父の手がかりが目的で、ゴンが押しています。キメラアント編の前半も、カイトを取り戻すというゴンの動機で進む。

一度渡して終わりにはならない。編ごとに預け先が動く。交代という言い方だと一方通行に聞こえますが、実際は往復しています。

この形が極端に出たのがキメラアント編の終盤だ。ネテロとの決着がついたあと、話を動かすのはメルエムとコムギ。討伐隊の作戦は先に置かれていて(→ キメラアント編の勝因は作戦にある)、残った時間を使うのは王でした。

味方の陣営ですらない2人だ。それでも読者は最後まで付いていける。

預け先を決めているのは、失うものの大きさではないか

編ごとの持ち主を見比べると、共通点が1つある。その編でいちばん大きなものを失いかけている人が、話を持っています。

ヨークシン編のクラピカは、一族の眼と自分の命を賭けている。会長選挙編のキルアは、ゴンの命が懸かった状態で実家に戻る。家族と決別してまでアルカを連れ出した。キメラアント編の終盤で、メルエムは残った時間を全部コムギに使っています。

ゴンが押した編も同じ形だ。ハンター試験は父に会う機会そのもの、グリードアイランドは手がかりを失うかどうか。賭けているものが大きい編ほど、その人物が前に出ている。

冨樫は視点を、人気や役職ではなく失うものの大きさで割り振っている。俺はそう読んでいます。

退場が物語の終わりにならない作りになる

この置き方には、大きな効き目が1つあります。

主人公を1人に固定していれば、その人物が動けなくなった時点で話が止まる。ところがハンターハンターでは、ゴンが戦えなくなって表舞台から退いたあとも物語が続きました(→ ゴンの念能力は本当に消えた?)。

止まらなかったのは、大きなものを背負った人物が別にいたから。会長選挙編ではキルア、王位継承戦ではクラピカ。渡す先があらかじめ育てられている。

王位継承戦では、その人数がさらに増えました。開始の時点で、14人の王子それぞれに命が懸かる形になっている(→ 王位継承戦の14王子は母の序列で読む)。誰が脱落しても、残った人物に続きがある。

群像劇に見えるのは、大きな賭けを抱えた人物が増えた結果だ。作りが変わったのではなく、同じ規則を広い範囲に当てただけだと考えています。

単行本にも、それらしい変化が指摘されています。32巻までゴンの紹介欄にあった「この物語の主人公。」という一文が、33巻以降は見当たらない。誰か1人に固定する書き方を途中でやめたようにも読めます。

ゴンとキルアが船の外で描かれているのも、この見方で説明がつきます(→ ゴンとキルアの再登場はNo.414)。今いちばん大きなものが懸かっているのは船の中で、2人はそこにいない。

まとめ|ハンターハンターの視点はどう動いてきたか

  • 誰の目的が話を動かしたかで数えると、視点の交代は5つ目のヨークシン編で起きている
  • そのあともゴンに戻っており、預け先は編ごとに行き来している
  • キメラアント編の終盤は、主人公側ですらないメルエムとコムギが話を持った
  • 預け先を決めているのは、その編でいちばん大きなものを失いかけている人物だと読める
  • だからゴンが表舞台から退いても物語が止まらず、王位継承戦では持ち主が14人に増えた

主人公が1人でなくなったわけではない。はじめから、いちばん失う人に渡す作りだったのだと思います。

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