ミルキの念能力が本編で描かれないのはなぜか|買い物に出された次男

10歳のとき以来、山を下りなかった男が、ゲームを1本買うためにヨークシンへ出てくる。ミルキ=ゾルディックが本筋に絡む場面のうち、いちばん長く描かれるのがこの外出だ。

暗殺の実行として描かれた場面は、この兄には1つもない。念能力も、本編では一度も使いません。それでも出番はある。何のために置かれた人物なのか、動いた場面から読み解きます。

※ヨークシンシティ編・グリードアイランド編の展開に触れます。

ミルキが本筋に絡むのは、数えるほどの場面だけ

  • キルアが家を出ていくとき、脇腹を刺されて止められなかった
  • 自室ではモニターに囲まれ、パソコンを操作している
  • キルアに頼まれて、グリードアイランドのROMを解析する
  • 10歳のとき以来の外出で、ヨークシンの競売へ向かう
  • 父シルバに電話で「15人殺るから150億ほど貸してくれ」と持ちかける
  • 落札はバッテラに競り負け、食事だけして帰る

描かれるのは、金とデータが動くときだけ。殺しの現場には一度も呼ばれていません。

ゾルディック家で、買い手として外へ出たのはミルキだけ

外との取引そのものは、ほかの面々もこなしている。シルバとゼノは十老頭から報酬を受けてクロロを狙い、依頼人が消えると引き上げた(→ シルバ=ゾルディックの念能力を父ゼノと比較)。イルミも外から仕事を請けている側だ。

ただし、その全員が売り手でした。腕を売り、報酬を受け取って山へ帰る。

ミルキだけが買い手として外へ出ています。相場を調べ、予算を組み、父から金を借りて競売に並ぶ。売る側と買う側では、外の世界との触れ方がまるで違う。

家そのものが外を寄せつけない作りなので、この差はよけいに目立ちます(→ ゾルディック家の試しの門は何トンか)。キルアもグリードアイランドのROMを解析させるとき、この兄を頼った。腕っぷしで解けない問題は、ミルキに回ってくる。

「15人殺るから150億貸してくれ」が示すもの

ミルキを語るときによく出るのが「暗殺一家に生まれたのに戦えない兄」という受け取り方です。ただ、シルバへの電話はその読みに合わない。

金が要るとなったとき、ミルキが差し出したのは暗殺の仕事でした。15人分の仕事で前借りさせろ、という交渉だ。父もそれを取引として受けている。

やれないのではなく、普段やっていないだけ。この一言で立ち位置が変わる。

キルアの家出を止められなかった場面も、腕の限界というより持ち場の違いとして読めます。連れ戻す役を担ったのはイルミでした(→ キルアはイルミの針が抜けても逃げる)。追う役も縛る役も、ミルキの受け持ちから外れている。

ミルキの念能力が本編で描かれない理由

ミルキの念能力は、本編で一度も出てこない。系統については、『ハンターズ・ガイド』に操作系という記載があります。「冨樫義博展 -PUZZLE-」で公開された設定資料では、特質系寄りの操作系とされています。どちらも本編の描写ではなく、資料に載っている情報だ。

資料どおりなら、ミルキも念能力者ということになる。それなのに、本編では使う場面が一度も与えられていない。

ゾルディック家のほかの面々は、能力が分かるほど「殺す側の人物」として固まっていきます(→ ゾルディック家の念能力まとめ)。ミルキだけ念を伏せておけば、読者の中でその位置に収まりにくい。

戦う姿を描かないほうが、受け持つ役割は分かりやすくなる。俺はそう考えています。

競り負ける場面が、ミルキの担当を示している

外へ出たミルキは、借金までして金を積みながら競り負けた。この負け方にも役割が出ています。

暗殺の腕なら、ゾルディック家は作中で世界的な一族として扱われる。ところが金の勝負に出た途端、大富豪ひとり相手に負ける。家の腕が通じない領域が、外の世界にはあるということです。

しかも、その領域に買い手として立ったのは一家でミルキだけでした。実行役が出れば、話は暗殺で片づいてしまう。金でしか動かない場面を描くには、金で動く人物が要る。

内側は執事たちが回している(→ ゾルディック家の執事で一番自由に動いたのはカナリア)。外での買い物はミルキ。殺しの実行だけが一家の仕事ではない、という形が見えてきます。

ミルキがいなければ、ゾルディック家は閉じたままだった

ミルキを外すと、ゾルディック家は山の上で完結します。依頼を受けて殺し、また山へ戻る。読者から見えるのは、その往復だけだ。

ミルキがいることで、この一家にも相場があり、予算があり、外部との交渉があると分かる。暗殺は家業であって、家業には経理も調達もあります。

だらしない兄として笑われる描かれ方も、この役割に合っています。強そうに描いてしまえば、読者は結局この兄を強さの順番に並べてしまう。並べさせないほうが、金とデータの担当だと伝わりやすい。

念能力を出さないのは、描き忘れなどではない。俺はそう読んでいます。

まとめ|ミルキは殺す側ではなく、買う側に置かれている

  • ミルキが動く場面は、金とデータの扱いに集中している
  • ゾルディック家の面々が腕の売り手なのに対し、ミルキだけが買い手として外へ出た
  • 「15人殺るから150億貸してくれ」の交渉は、暗殺ができないという読みに合わない
  • 念能力は本編で描かれず、系統は『ハンターズ・ガイド』と冨樫義博展の資料にある記載にとどまる
  • ミルキがいるおかげで、ゾルディック家は閉じた暗殺一家で終わらずに済んでいる

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