もし王宮に踏み込んだのが、ネテロただ一人だったら。キメラアント編は決着しないまま終わっていたはずです。
討伐隊が用意した手を役割で分けると4つになる。蟻の王メルエムを戦闘で上回るための手は、その中に一つもない。向いている先は王本人ではなく、王の周りだった。
ネタバレ注意。キメラアント編の結末に触れています。
キメラアント編の討伐隊は、王より強い者を用意していない
王宮に入った戦力を確認します。ネテロ、ゼノ、シルバ、モラウ、ノヴ、ナックル、シュート、ゴン、キルア。そこに蟻側から寝返ったメレオロンとイカルゴが加わる。パームは突入前にピトーへ捕まり、改造された姿で王宮内にいた。
このうち王と戦うと決まっていたのはネテロだけ。ほかの面々に割り振られた相手は護衛軍と師団長です。
戦力の見積もりも人間側が下でした。ネテロは貧者の薔薇(ミニチュアローズ)を体に仕込んで王宮へ入っている。自分が勝てなかった場合の手を、戦う前から用意していた。
ネテロが拳に何を積み上げてきたかは 感謝の正拳突きを分解する にまとめました。
王宮で使われた手は、どれも王本人に向いていない
突入してから使われた手は、役割で見ると4つに分かれる。
| 手 | 誰が担ったか | 王に対して何をしたか |
|---|---|---|
| 王のそばを空ける | ゼノ(王宮)、シルバ(師団長) | 護衛軍と師団長を王から引き離した |
| 気配を消して移動する | メレオロン、ノヴ | 王に討伐隊の位置を悟らせない |
| 王へ情報を届ける | イカルゴ、ウェルフィン | 蟻側の内部から王の心を動かした |
| 念で防げない兵器を使う | ネテロ | オーラの強さと無関係に効かせる |
ゼノの龍星群(ドラゴンダイブ)は、王宮の屋根を貫いて内部をかき乱しました。このとき巻き添えでコムギが重傷を負い、ピトーは治療に付きっきりになる。シルバは師団長ヂートゥを排除した。護衛軍3体はそれぞれ別の相手へ動き、王の周囲が空く。
メレオロンの神の不在証明(パーフェクトプラン)は、息を止めているあいだ自分の気配を消す能力。続けて使う神の共犯者では、触れた相手にも同じ効果が乗る。
ノヴの4次元マンション(ハイドアンドシーク)も、運ぶための能力でした。この2つがなければ、討伐隊は王宮へ入る前に見つかっている。どちらにも敵を倒す力はない。
イカルゴは蟻でありながらキルアと組んだ。ウェルフィンが王の前で口にしたのは「コムギ」の名です。この一言で王は失った記憶を取り戻す。
2人とも王を殴ってはいない。届いたのは情報のほうです。
そしてネテロが体に仕込んでいた貧者の薔薇。念の防御とは無関係に、毒として効く。プフとユピーもこれで倒れました。
4つの手はすべて、王を一人にするために置かれている
4つを同じ基準で見ると、手の向き先がそろっています。どれも王本人ではなく、王の周りに働いている。
護衛軍を散らせば、王のそばから守りが外れる。気配を消せば、王は迎え撃つ準備ができない。情報が届けば、蟻側の連携は内側から崩れます。
薔薇だけは王本人に効く手ですが、これも王が一人でなければ使えない。プフとピトーがそばにいれば、ネテロは王と一対一の状況を作れなかった。
王の戦闘力は最後まで落ちていない。ネテロとの打ち合いでも王が圧倒している。落ちたのは王の周りだけ。護衛軍が何を補っていたかは 護衛軍3体はメルエムの何を補ったのか に書きました。
俺はここに、この編の設計が出ていると考えています。最強の相手を弱くせずに倒すなら、相手を強いままにして周りを取り除くしかない。
キメラアント編で念の強さが通用した例は一つだけ
仮説が成り立つかどうかは、例外を見るとはっきりする。
王と護衛軍を相手に、念の力で上回って倒した例はゴンだけ。ピトーを圧倒し、頭部を砕いて決着まで持っていきました。
ただし、その代償に念を失った。取り返しのつかない交換でした。ゴンの念が今どうなっているかは ゴンの念能力は本当に消えた? で確かめています。
ナックルとシュートはユピー相手に善戦した。天上不知唯我独損(ハコワレ)でユピーを破産、つまり強制的な絶へ追い込む算段まで組み立てている。それでも決めきれず、ナックルは人質のモラウを助けるために自分から能力を解除しました。この2人が果たしたのは時間を稼ぐ役目。
モラウはプフを煙の檻に閉じ込め、王のもとへ行かせませんでした。閉じ込めて時間を奪う戦い方。同じ性質は モラウの念能力は”戦場ごと作り替える” で詳しく見ています。
念の強さで押し切った唯一の例が、最も重い代償を払っている。戦って上回る道をこの編がどう扱っていたか、ここに出ています。
王の周りを崩す設計は、決着のつけ方まで変えた
作戦は成功した。王も護衛軍も倒れ、討伐隊の目標は達成されています。
それでも読み終えたあとに残るのは、勝った感触ではありません。ネテロは死に、ゴンは念を失い、カイトは人間としては戻ってこなかった。戻れたと言えるのかどうかは カイトの転生は同じ人物なのか で基準を立てて比べています。
王の側も、討伐隊に屈したわけではない。毒を受けたあと、王は記憶を取り戻してコムギのもとへ戻り、軍儀を打ちながら息を引き取ります。最後に王が向き合ったのは、自分の中に生まれたもののほうだった。王とコムギの差は コムギはメルエムと何が違ったか で掘り下げた。
念の強さで決着させなかったぶん、勝敗の意味が戦いの外へ動いたように読めます。強さを競う話として終わらせていたら、王が最後にコムギと過ごす時間は入る余地がなかった。
蟻側も全滅してはいません。イカルゴやメレオロンは生き残り、それぞれの居場所へ向かう。この編の勝ちは、敵を消すことでは終わっていない。
まとめ
- 王宮に入った戦力に王より強い念能力者はおらず、王と戦う役はネテロ一人に割り振られていた
- 討伐隊が使った手は、王のそばを空ける・気配を消す・情報を届ける・念で防げない兵器を使うの4つ
- 4つとも狙いは王本人ではなく周囲にあり、王を一人にする点でそろっている
- 念の強さで押し切った例はゴンだけで、その代償に念を失っている
- 王は毒で倒れたあとコムギのもとへ戻り、勝敗の意味が戦いの外へ移った
護衛軍が何を担い、王が何を引き受けたのかは 護衛軍3体はメルエムの何を補ったのか に整理しています。
倒す力を持たない能力が戦場でどう働くかは メレオロンの神の不在証明は”消えるだけ” でも扱いました。

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