護衛軍3体はメルエムの何を補ったのか|やがて本人が引き受けるまで

ネフェルピトーは円で周囲を探り、シャウアプフは人の心を読み、モントゥトゥユピーは侵入者を殴り倒しました。王直属護衛軍3体が実際にやっていたことです。

3つに共通するのは、担い手が王ではないこと。どれも、そのころのメルエムが自分ではやらなかったことだ。

護衛軍は王を守る戦力というより、王がやらない役目を分けて持つ形で置かれたのではないか。そう仮定して、当てはまる場面と、そこから外れた場面をたどります。

※キメラアント編の終盤、王と護衛軍それぞれの最期に触れます(単行本既刊分)。

護衛軍3体が実際に担っていた役目

3体はもともと女王のもとに生まれ、王の誕生後は王に仕える立場になった。下級の兵は精孔を開く行程を踏みます。護衛軍のほうは、生まれた時点で念能力を持っている。

ピトーが持っていたのは、探知と修復です。円で宮殿の周囲を探り、侵入者を見つける。玩具修理者(ドクターブライス)でカイトの死体を直し、別の念人形で操り人形にもした。のちにはコムギの傷を治しています(→ ネフェルピトーの念能力)。

プフが持っていたのは、人の心です。鱗粉乃愛泉(スピリチュアルメッセージ)は、撒いた鱗粉から相手のオーラの流れを読み、感情や考えを推し量る力。鱗粉には暗示の効果もある。蝿の王(ベルゼブブ)で体を分け、宮殿の内側を管理していました(→ プフの念能力)。

ユピーには、名前のついた発が出てきません。肉体を自在に変形させ、オーラ量そのもので押し切る型だった。中央階段に立ち、上がってくる侵入者を迎え撃つ役です(→ ユピーの念能力)。

探知、人心、迎撃。3体の役目は、きれいに重なっていません。

軍儀に没頭していた王が、自分ではやらなかったこと

メルエム本人はどうか。生まれた時点でオーラ量が桁違いで、円も使える。他者を喰らって取り込む性質も持っている。戦う力に不足はありません。

それでも軍儀に没頭していた間の王は、この3つを自分で握っていない。宮殿の探知はピトーに任せ、人の心の内を読む役はプフが持ち、侵入者を迎え撃つ役はユピーが引き受けていた。ノヴが宮殿へ潜入できたのも、王が自傷してピトーが円を解いた隙でした。

3体は、そこに空いた場所へ収まっている。つまり護衛軍は、王の戦力を増やすために置かれたのではない。王がやらない役目を代わりに持つ形で組まれている、と読めます。

なぜ3体に役目を分けたのか

この読み方の根拠は、3体の振る舞いが最後まで一貫している点にある。

ピトーは王の命令を守り、ゴンが目の前に立ってもコムギの治療を続けました。1時間待つよう頼み、自分の腕を潰してまで治療を優先している。プフは王が人間に近づくのを止めようとし、ユピーは王のために体を変え続けた。3体とも、向かう先は常に「王のあるべき姿」です。

とくにプフが分かりやすい。貧者の薔薇を受けて王が記憶を失ったあと、プフはコムギの記憶が戻らないほうが王のためだと判断する。分身を宮殿へ走らせ、コムギを消そうとまでしている。

これは護衛ではありません。王の中身を、以前のまま保とうとする動きだ。忠誠の対象が、目の前の王本人ではなく「王という理想」に向いている。

分担を与えられた3体が、そろって本体を以前のままに保とうとした。そう見ると、プフの暴走は裏切りではなく、役目に忠実すぎた結果として説明がつきます。

メルエムは護衛軍の役目を自分で引き受けていく

この読み方の当たり外れは、王が自分でやり始めた場面で分かります。

先に動いたのは心の側でした。王は軍儀の盤の上で、コムギから直接学んでいる。プフを通さず、人間ひとりと向き合って得たものです(→ コムギはメルエムと何が違ったか)。

そのうえで記憶も取り戻します。ウェルフィンの口から「コムギ」という言葉が零れた瞬間、王はすべてを思い出した。プフが必死に伏せていたものを、自力で引き寄せている。

探知も自分の手に移りました。終盤の王は円を大きく広げ、宮殿どころか周囲数キロを把握するようになる。ピトーに預けていた役目が、王の側へ戻った形です。

例外は暴力の部分でした。ネテロと正面から殴り合ったのは王本人ですが、これは王が3体を下がらせた結果ではない。引き離したのはハンター協会側の作戦です。

ノヴのワープで送り込んだ隊が護衛軍を足止めにかかる。ゼノは龍星群を宮殿全体へ降らせ、王と護衛軍を分断した。そのうえで龍頭戯画に王とネテロを乗せ、宮殿の外へ運び出しました。ピトーはこのときコムギの治療で動けていません。

ここだけは、王が引き受けたのではなく取り上げられている。それでも結果として、王は補いのない状態でネテロと向き合うことになった。

そして最後に残ったのは、3体の役目のどれとも違う選択です。死の間際、王が求めたのは護衛軍ではなくコムギでした。軍儀を打ちながら息を引き取っている。

護衛軍の設計から見えてくるもの

3体の役目は、王が王として完成していないことの裏返しだったのではないか。俺はそう考えています。生まれた時点で戦闘力は仕上がっていた。それでも空いている部分があり、そこを3体が外から支える形になっている。

もし王が最初から3体を必要としないほど万能だったら、コムギとの時間が物語に入り込む隙はありません。探知も人心も他人任せにできる王だからこそ、人間ひとりが割り込む余地が生まれた。メルエムの進化が軍儀の盤上で起きたのは、そこが空いていた場所だからでしょう。

3体の最期の描かれ方もそろっている。ピトーはゴンに討たれた。ユピーは自分の細胞を液体に変えて王に差し出し、貧者の薔薇の毒で力尽きています。プフは王の理想を守ろうとして届かなかった。

誰も、王の変化そのものを止められていない。

支える側は、支えられる側が動き出したら追いつけません。冨樫が護衛軍に持たせたのは、王を守る力だけではない。王がどれだけ変わったかが分かる基準にも見えます。

まとめ|護衛軍3体が担っていたもの

  • 護衛軍3体の役目は探知(ピトー)、人の心(プフ)、迎撃(ユピー)に分かれ、重なっていない
  • どれも軍儀に没頭していた間の王が自分では握っていないことで、戦力を足すより空白を埋める形になっている
  • プフがコムギを消そうとしたのは裏切りではなく、王を以前のまま保とうとする役目に忠実すぎた結果と読める
  • 終盤の王は心と探知を自分の手に戻していく。ネテロ戦だけは例外で、引き離したのはハンター協会側の作戦だった
  • 最期に王が求めたのは護衛軍ではなくコムギ。3体が守ろうとした「王のあるべき姿」から、王自身が離れていった

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