キメラアントの女王とメルエムは、どちらも他の生き物を食べます。ただし食べたものの行き先が逆。女王は子に渡し、メルエムは自分に足す。
4つの基準で比較すると、差が開くのは餌の量と、次の代へ渡す経路の2つ。
※キメラアント編の結末に触れます。
女王とメルエムの食べ方は、4つのうち2つで割れる
強さの順位を決める話ではない。見るのは食べ方と、その行き先だけです。
摂食交配は、女王が他の生物を食べると、その形質が次に産む子に出る仕組み。人間を食べさせれば、人間に似た子が生まれます。群れを増やすこの働きは、女王のもの。
| 基準 | 女王 | メルエム |
|---|---|---|
| 何を食べるか | 兵隊が狩って運んでくる人間 | 自分で選んだ相手。念能力者を好んだ |
| 食べたものの行き先 | 次に産む子の形質になる | 自分の力になる |
| どれだけ食べるか | 1日に人間50人分。王を宿してから5倍 | 量は問わず、念能力者だけ |
| 次の代へ渡す経路 | 摂食交配 | 交配で次の女王を作る役目 |
何を食べ、それがどこへ行くか。この2つは2体の立場をそのまま表している。片方は次を作る側、もう片方は自分を強くする側。
差が開くのは、餌の量と、渡す経路のほうです。
餌の量は、1日に人間50人分から5倍になった
キメラアントの女王にとって、食べることは自分のためではない。
質のいい餌を食べさせるほど、生まれてくる子の性能が上がる。だから兵隊は人間を狩り、人肉団子にして運び続けます。増えるのは子の側で、女王は受け取って流すだけ。
求める量は、王を宿した時点で変わる。それまで1日に人間50人分だった要求が、一気に5倍へ増えた。5倍になった以上、群れの狩りの規模もそれに合わせて動いたはずです。
メルエムの側は、量を問題にしていない。求めたのは質のほうで、餌に選んだのは念能力者だけ。食べれば食べるほど強くなる(→ メルエムはなぜ最強で生まれた?)。強くなる経路は捕食であって、盤上の勝ち負けではありません。
同じ「食べる」でも、母は数を求め、子は中身を選んだ。そして数を求めた側だけが、その代償を体で払うことになります。
王の出産で、女王は繁殖する力を失いました。メルエムは出産の日を待たず、自分で腹を破って生まれてくる。
師団長コルトの嘆願でネテロが治療を認めますが、内臓の損傷が深く間に合わなかった。護衛軍のネフェルピトーは、女王は自分たちの役目の外だとして治療を断っています(→ 護衛軍3体はメルエムの何を補ったのか)。産み終えた女王を助けられる者は、群れの中にもいなかった。
摂食交配を持つのは女王だけ。王は別の経路を使わなかった
もう一つ割れるのが、次の代へ渡す経路です。
女王の経路は摂食交配。食べたものを子の形質に変えて流します。この仕組みは王にはない。
ただし王が種に対して無力かというと、そうではない。作中では、王が放浪して次の女王を産ませるという役目が語られています。経路の中身は違うが、渡す道自体はどちらにも用意されていた。
差が出たのは、そこを使ったかどうか。メルエムが東ゴルトーへ向かったのは、レアモノと呼んだ念能力者を狩るため。次の女王を作るためではありませんでした。
結果として子は残らず、最後に残ったのはコムギとの時間と、自分の名前だけ。女王が最期に付けた「メルエム」という名には、すべてを照らす光という意味が込められていました。名は残った。中身を継ぐ相手は残らなかった。
王が終点になり、群れを継いだのは別の個体だった
女王は群れの狩りを5倍に増やして、最上の1体を作りました。その1体は確かに最強に育つ。ただし渡す役目は使われないまま終わる。いちばん多く注ぎ込まれた相手から、次の代は生まれなかった。
それでもキメラアントは消えていません。メレオロン、イカルゴ、コルト、ウェルフィン。生き残った個体はいる。ただし摂食交配で強くなる増え方のほうは戻っていない(→ キメラアントは絶滅していない)。
女王の死後、ザザンは自ら女王を名乗り、人を刺して自分の群れをそろえようとしました。その群れも幻影旅団に潰されます(→ ザザンの念能力はなぜ自分に向いたのか)。代わりを立てる試みはあった。続かなかっただけです。
冨樫はこの順番の付け方がうまい。群れの総力を集めた1体が、次へ何も残さずに終わる。読者は王の強さを追いかけて読む。種としての勝ち負けが別の場所で決まっていたことには、後から気づかされます。
残ったものが力ではなく、人と過ごした記憶のほうだったのも同じ設計でしょう(→ キメラアントの記憶に残ったのは誰か)。
まとめ|女王は数を求め、王は中身を選んだ
- 女王とメルエムは同じように他の生き物を食べるが、行き先が逆。女王は摂食交配で子へ渡し、メルエムは自分に足す
- 女王が求める餌は1日に人間50人分。王を宿してから5倍になった。メルエムの側は量を問わず、念能力者だけを選んでいる
- 王の出産で女王は繁殖する力を失った。ネフェルピトーは自分たちの役目の外だとして治療を断っている
- 次の代へ渡す道は両方にあった。王には放浪して次の女王を産ませる役目があるとされる。ただしメルエムが動いたのは念能力者を食べるためだった
- 生き残ったのはメレオロンやイカルゴのような個体。摂食交配で強くなる増え方のほうは戻っていない
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