死んだ総帥が、テレビの中では元気な姿を見せている。国民はその総帥の名で出た指示に従い、集められていく。
キメラアントに乗っ取られたあとの東ゴルトー共和国で起きたことだ。ただし、国民を集める経路も、逃げれば家族まで罰を受けるしくみも、蟻が作ったものではありません。
蟻が新しく持ち込んだのは、選別の計画と戦力の集中の2つだけ。残りは、鎖国に近いこの国が先に持っていた。
※キメラアント編の展開に触れます。
蟻が東ゴルトーへ移った理由は、原作で語られていない
蟻の女王が流れ着いたのはNGL自治国でした。文明の利器を持ち込めない国で、外とはほぼ切れている。王が生まれると、蟻はここを早々に去った(→ メルエムはなぜ最強で生まれた?)。
移った先が東ゴルトーだ。同じ島の西の端がNGLで、東の端が東ゴルトー。距離としては近い。
なぜこの国だったのかは、原作で明言されていません。ファンの間では、外へ情報が漏れない国だから選んだ、という読みがある。質のいい食料を求めたという説明も出ている。どちらも原作の記述ではありません。
狙って鎖国状態の国を選んだとは言えない。それでも、移った先は乗っ取るのに都合のよい国でした。
東ゴルトーで起きたことを、出どころで3つに分ける
原作にこの分け方が出てくるわけではありません。誰が持ち込んだものかで並べ直すと何が見えるか、という当サイトの整理です。
| 分類 | 中身 |
|---|---|
| 蟻が持ち込んだもの | 選別の計画、戦力の集中 |
| 元からあって蟻が使ったもの | 密告のしくみ、亡命者への処刑、報道機関の掌握、全国民を招集できる総帥の権威 |
| 蟻が来ても変わらなかったもの | 外から見た国のふるまい |
1つ目は分かりやすい。全国民500万人に選別をかけ、念能力者をより分ける。自分の兵にしようとしたのは、蟻が始めたことです。
2つ目が本題に近い。東ゴルトーには「指組」と呼ばれる密告のしくみがあります。亡命を企てれば、家族も死刑か終身投獄になる。
三権と報道機関は総帥と軍が握っている。他国については、嘘の情報が国民に教え込まれていました。これらはすべて蟻より先からあったものだ。
王メルエムは総帥マサドルディーゴを殺し、その体をネフェルピトーが操っている。体制の頂点だけを入れ替えて、しくみはそのまま動かしました。
東ゴルトーに元からあったしくみは、蟻にとって都合がよかった
国民から見ると、命令が届く経路は変わっていない。総帥の名で出た指示に従い、疑えば密告され、逃げれば家族まで罰を受ける。相手が人間か蟻かは、末端には見えません。
制圧の手間がまるごと省ける。500万人を集めるのに、蟻は1人も説得していない。
開かれた国なら、こうはいかない。命令の出どころを疑う経路があり、国外へ出る手段があり、外の報道も入ってくる。乗っ取る側は、そのすべてを潰すところから始めるしかなかったはずだ。
蟻の側の力が強かったのは確かです。ただ、選別を全土で回す段になると、ぶつかるのは戦闘より統治の問題だった。元からあったしくみをそのまま使えたことが、大きく効きました。
ここまでは、出どころで分ければきれいに収まる。収まらないものが3つあります。
東ゴルトーの外から見たふるまいは、何も変わらなかった
1つ目は、蟻が作ったものでも国が元から持っていたものでもない。何も起きなかった、という一点だ。
出どころで分ける基準に、これだけが乗らない。誰かが持ち込んだわけではないので、出どころ自体がありません。
東ゴルトーはもともと外交がなく、情報も出ない国でした。乗っ取られたあとも、外から見えるふるまいはほとんど変わらない。国民の招集が進み、選別の準備が整うところまで、蟻は誰にも止められずに動いている。
気づくのが遅れたのは国民と周辺国のほうだ。ハンター協会は蟻の存在自体をNGLの段階でつかんでいます。討伐隊が少人数だったのも、中途半端な戦力を送れば食われて敵が強くなるからでした(→ キメラアント討伐隊が6人だったのは出し惜しみではない)。
何も起きないことが、いちばん時間を稼いだ。分類の3行目は、被害の規模に最も効いた項目でもあります。
閉じた東ゴルトーから、情報は漏れていた
2つ目は、その「変わらなかったもの」自体の例外だ。
高級官僚のマルコスは、第三国への亡命と引き換えに国内の様子を明かしています。閉じた国から情報が出ない、という前提はここで崩れます。
それでも蟻の統治は止まらなかった。漏れた先はハンター協会の側で、協会はもともと蟻を追っていました。外へ知らせても、止められる相手が増えたわけではない。
東ゴルトーという国の作りは、ここが厄介だ。情報を封じているから安全なのではなく、封じられた側に助けを呼ぶ先がない。マルコスが明かしたのも、自分の亡命のために差し出した内部情報でした。国民を助けるための告発ではない。
閉じた国では、漏れた情報が救援につながらない。分類の2つ目にも3つ目にも、この一件はきれいに収まりません。
テレビの中の総帥だけは、蟻が新しく足したもの
3つ目は、2つの分類の間にある。報道機関の掌握は元からあった。ただし、殺した総帥を操ってテレビに出す細工は、蟻が新しく足したものです。
テレビ放送では総帥が元気な姿を見せていた。だから国民は、その死に気づいていません。
蟻はここだけ手をかけている。元からあった閉じ方に、蟻の側の偽装が1枚だけ重なった。乗っ取ったあとも権威を残したほうが、しくみをそのまま動かせるからだ。
新しく作ったものと、元からあったものは、実際には切れていない。元からあったしくみを動かし続けるために、蟻は最小限だけ手を足した。分類の1行目と2行目の境目は、この一点ではっきりしません。
蟻が持ち込んだものだけでは、東ゴルトーはあの規模にならなかった
3つの分類と、収まらなかった3つを通して見ると、蟻が自前で用意したのは戦力と選別の計画までです。
人を集め、逃がさず、外から見えなくする部分は、東ゴルトーが先に持っていた。蟻はそこへ入り込んで、頂点だけを取っている。
この重なり方こそがキメラアント編の規模を決めた、と俺は読んでいる。強い個体が生まれただけなら、被害はもっと狭い範囲で終わっていたかもしれません。国ひとつが丸ごと敵になったのは、乗っ取れる形の国が同じ島の反対側にあったからだ(→ キメラアント編の勝因は作戦にある)。
しかも蟻は、その国を狙って選んだわけではない。理由がはっきりしないまま移った先が、たまたま最も乗っ取りやすい国でした。偶然が話の規模を一段上げたことになります。
まとめ|東ゴルトーの鎖国体制は、蟻より先にあった
- 蟻が持ち込んだのは選別の計画と戦力の集中の2つで、人を集めるしくみは作っていない
- 密告のしくみ・亡命者への処刑・報道機関の掌握は、蟻の到来より前から続いていた
- 蟻は総帥を殺したあと操り、体制の頂点だけを入れ替えた
- 外から見えないままだったことが、選別の準備が整うところまで蟻に時間を与えた
- マルコスの告発で情報は漏れたが、閉じた国では漏れても救援につながらなかった
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