キルアの脳には、5巻から21巻まで針が刺さったままだった。イルミが最終試験で刺したもので、本人は気づかないまま。自分で抜いたのは1年以上あとの戦いのなかです。
刺されば終わり。それが操作系の効き方だ。それなのに、操作系は弱いと言われる。
作中で操作が効いた場面を並べると、差がついているのは威力ではありませんでした。変わるのは、そこへ届くまでに踏む手順の数のほう。しかもその数は、操る相手によって動いているように見える。
※ハンター試験編・キメラアント編の結末・王位継承戦の展開に触れます。
操作系の念能力が効いた場面を整理する
まず、操作が実際に機能した場面を並べます。
イルミの針は、刺した相手を操る力。キルアに刺さっていた1本には、確実に勝てない相手からは逃げろという命令が込められていた。刺したのは5巻の最終試験で、キルアが自力で抜いたのは21巻。その間ずっと、命令は本人の判断として働いています。
モラウの紫煙拳(ディープパープル)は煙を操る能力。応用の紫煙機兵隊では煙人形が動く。
キメラアント編の王宮では、プフを煙の檻に閉じ込め、王のもとへ行かせませんでした。相手に触れる必要も、事前に仕込む必要もない。ただしキセルは要る。
シャルナークの携帯する他人の運命(ブラックボイス)は、アンテナを刺した相手を動かす能力。操作には携帯電話を使います。刺しさえすれば相手の意思は関係なくなる。ただし刺すまでが本番で、戦闘中に近づいてアンテナを打ち込む必要がある。
ネフェルピトーの黒子舞想(テレプシコーラ)は、オーラの糸で自分の体を操る能力。ゴンに頭を潰されたあと、この能力が自分の死体を動かして、その右腕を落とした。
操作系が六性図のどこに座っているかは 念能力の六系統とは? で扱っています。
操作系の条件は、操る相手が変わると重さも変わる
この4つを、操る相手で仕分けるとこうなります。
| 操る相手 | 例 | 発動までに要る手順 |
|---|---|---|
| 人 | シャルナーク、イルミ | 近づいて媒介を刺す |
| 物 | モラウ | キセルで煙を出す |
| 自分 | シャルナーク | 自分に刺す |
| 死んだ自分 | ピトー | なし |
上から下へ、要る手順が減っていく。
並び順は、操る相手の抵抗の大きさとそろっている。人は嫌がるし、逃げるし、刺されまいと構えます。だからシャルナークもイルミも、まず刺すという別の勝負を挟むことになる。しかも媒介がバレれば、その後は近づくだけで警戒される。
煙は嫌がらない。モラウは吐いた煙をそのまま動かせます。戦場そのものを組み替える使い方ができる理由は モラウの念能力は“戦場ごと作り替える” で見た。
系統の内訳も添えておく。モラウの系統は本編で名指しされていない。冨樫義博展 -PUZZLE- の設定資料で純操作系とされている。ピトーは特質系で、操作系を得意とするタイプです。
冨樫は「抵抗の大きさ」に条件を釣り合わせているのではないか
4つの並び順が偶然でないとすれば、手順の重さを決めているのは操る相手のほうだ。操作系の条件は、相手がどれだけ抵抗するかに合わせて置かれているのではないか。
支えになるのが、原作のもう1つのルール。すでに誰かに操作されているものは、別の能力者が操作できない。
22巻でシャルナークがキメラアントにアンテナを刺す場面がある。ところが動かせない。先に別の者が操っていたためで、作中では操作系は早い者勝ちだと言われています。
このルールは、操作を「動かす権利を1人だけが持つ状態」として扱っています。権利の取り合いなら、抵抗が強い相手ほど取りにいく手間が増えるのは筋が通る。
人を操るシャルナークとイルミの能力がどちらも一撃必殺に近いのも、同じ理屈だと思う。相手の意思をまるごと取り上げるぶん、取りにいく前の手順が重くなる。
差し出すものと得るものの釣り合いは 制約と誓約は“念の交換レート” にまとめた。操作系の場合、その釣り合いが能力ごとではなく、操る相手ごとに動いて見えます。
抵抗がゼロになると、条件はどこまで消えるか
見方を確かめるには、抵抗がない場合を見るのが早い。
シャルナークは自分にもアンテナを刺します。自分を操って戦うモードで、このときは刺す苦労がない。自分の体に自分で刺すだけなので、相手に近づく勝負が消える。
代わりに別の代償が乗る。発動中は自我を失って記憶も残らず、解除したあと2〜3日はひどい筋肉痛でまともに動けない。だから最後の手段として使われます。
抵抗を押しのける手順が消えたぶん、負担が自分の側へ移った形だ。
早い者勝ちのルールからすると、自分を先に操っておけば他人に操作されないことにもなる。実際、王位継承戦のシカクは能力を発動するとき、まず自分を操作する。シカクは敵の操作系能力を防げると、バルサミルコが説明しています。
シャルナークの自動操作にその狙いがあったとまでは描かれていない。それでも、ルールの帰結としては成り立つ。
ピトーは条件がさらに少ない。ゴンに頭を潰され、抵抗する主体そのものがなくなった状態で、黒子舞想が死体を動かしています。死後強まる念という前提はあるものの、刺す手順も近づく手順も要らない。ピトーの能力全体の設計は ネフェルピトーの念能力 で扱った。
抵抗が消えるほど手順が減る。人を操るときの重さと、ちょうど逆を向いています。
抵抗の大きさだけでは決まらない場面もある
この見方が届かないところも書いておきます。
22巻のシャルナークは、手順を踏んでいます。近づいて、アンテナを刺した。抵抗を押しのける作業は終わっていたのに、それでも動かせなかった。理由は相手の抵抗ではなく、先に別の者が権利を取っていたからです。
つまり手順の重さは抵抗の大きさで決まるとしても、手順を踏み切れば必ず取れるわけではない。先約があれば、そこで終わる。
この一件を見ると、操作は「相手をねじ伏せる行為」ではない。「1つしかない席を取る行為」として見たほうが通る。席が空いているかどうかは、相手の強さとは別の話です。
「操作系は弱い」は、勝ち幅の大きさの裏返しではないか
ファンの間では、操作系は弱い系統として語られることがあります。理由に挙がるのは3つ。
- 強化系のような破壊力がない
- 六性図で強化系から遠く、近接戦に向かない
- 発動条件が複雑
ただ、条件の複雑さを弱さの理由に数えるのは、順番が逆かもしれない。刺されば勝ちという結果のほうが先にあって、それに見合う重さとして条件が置かれたのではないか。
シャルナークもイルミも、決まった場面では相手の力量に関係なく制圧しています。この勝ち方を無条件で許せば、殴り合いの決着がすべて意味を失う。冨樫は勝ち幅を削らない代わりに、そこへ届くまでの手順を増やしたのだと思う。
倒す力を持たない能力に別の役目を持たせる作り方は 戦わない念能力は何を奪っているのか でも見た。操作系はその逆です。勝ち幅が大きすぎるぶんを、条件で抑えている。
俺は、操作系が弱いのではなく、弱く見えるところまで含めて設計されているのだと考えています。使い手が苦労する場面ばかり描かれるのは、その苦労こそが能力の値段だからだ。
まとめ|操作系の条件は、操る相手の抵抗と釣り合って見える
- 操作系は決まれば勝ちに近い能力が多く、差が出ているのは威力ではなく発動までの手順の数
- 人を操るシャルナークとイルミは近づいて媒介を刺す必要があり、物を操るモラウにはキセル以外の仕込みが要らない
- 22巻で示された「操作系は早い者勝ち」のルールから、操作は動かす権利の取り合いとして設計されていると読める
- 自分を操る場合は刺す苦労が消える代わりに、自我と数日の行動不能という代償が乗る
- ただし手順を踏み切っても、先に権利を取られていれば操作できない。抵抗の大きさだけでは決まらない
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