戦わない念能力は何を奪っているのか|相手の体ではなく戦える条件

アンテナを刺す。ゴリラと位置を入れ替える。息を止めて消える。どれも相手のオーラを1ミリも削らない能力だ。

それでも、決まった瞬間に勝負が付いている。奪っているのが相手の体ではなく、相手が戦える条件のほうだからです。

メレオロン・シャルナーク・シズク・ゴレイヌの4つで、この作り方を見ていきます。発動の条件がどれも重いことにも、理由がありそうだ。

※ヨークシン編・グリードアイランド編・キメラアント編・会長選挙編の展開に触れます(単行本既刊分)。

戦わない念能力が相手から奪っているもの

4つが実際に何を取り上げたのかを整理します。

能力 使い手 奪うもの 使われた場面
携帯する他人の運命 シャルナーク 自分の体の主導権 操ったマフィアの同士討ち
神の不在証明 メレオロン こちらを狙うという行為 キメラアント編の王宮
黒い賢人 ゴレイヌ その場に立っていること レイザーとのドッジボール
デメちゃん シズク 血・物・痕跡 競売襲撃の後始末

オーラを削って体力を減らす形が、ひとつもない。相手の体そのものには手を出していません。

奪われているのは体ではなく、戦える条件

外し方はまるで違うのに、外している位置はそろっている。順に見ていく。

シャルナークの「携帯する他人の運命(ブラックボイス)」。アンテナを刺した瞬間に、相手を無力化する。刺されば体の主導権がそのまま移ります。ただし手持ちのアンテナは2本だけで、同時に操れるのは最大2人(→ シャルナークの念能力ブラックボイス)。

メレオロンの「神の不在証明(パーフェクトプラン)」。息を止めているあいだ、誰からも認識されなくなる能力だ。音も気配も匂いも消え、円にも引っかからない。相手は狙うという行為を成立させられません。

ゴレイヌの黒い賢人は、自分以外の対象1名とゴリラの位置を入れ替えるもの。ダメージはゼロで、相手はその場から消えるだけだ(→ ゴレイヌ最強説の半分は本当)。

シズクのデメちゃんが吸えないのは、シズクが生き物と認識したものと、他人の念で作られた物。競売襲撃では、フランクリンが倒した死体と血を吸い込んで痕跡を消しました(→ シズクの念能力デメちゃんは、敵を倒すために作られていない)。

シズクだけは例外も持つ。パイク戦ではデメちゃん本体で殴って裂傷を作り、そこから血を吸い取って倒した。体を壊す使い方も残っている珍しい例だ。

それでも4つに通っているのは、体を壊す代わりに立っていられる条件のほうを抜く、という形です。

外したあとに何を置くかで結果が変わる

条件を外しただけでは勝ちになりません。空いた場所に何を置くかで、その後が分かれる。

シャルナークはヨークシンで、操ったマフィアにその仲間を撃たせました。自分の攻撃ではなく、相手の攻撃を相手へ向け直している。だが駒にした相手は殺され、次の駒を探すことになった。

メレオロンが置いたのは、味方の攻撃だ。ナックルのハコワレを当てる場面を作り、のちにキルアと組んでユピーを足止めしました。「神の共犯者」で触れた相手にも効果を渡せるため、誰かを連れて行く使い方が能力に組み込まれている(→ メレオロンの神の不在証明は自分では勝てない能力)。

ゴレイヌは自分でボールを投げ、レイザーに当てました。あの試合でまともに一発入れたのは彼だけ。もっとも直後に投げ返されたボールで気絶し、そこで退場しています。

外す能力そのものより、置くものの選び方で差が出る。同じ型なのに使い手ごとに戦い方が違って見えるのは、この部分が空いているからだと俺は考えています。

冨樫はなぜ発動の条件を重くしたのか

奪う型の能力には、必ず重い前提が付く。

アンテナは刺さなければ効かない。息を止めていられる時間には限りがある。ゴリラは自分で動かす必要があり、デメちゃんは生き物を吸えません。決まれば強いぶん、決めるまでが難しく作ってある。

理由はオーラ量の順位を壊さないためではないか、と俺は読んでいます。念の強さは基本的にオーラの総量と鍛錬で決まる。そこへ「当たれば即決」の能力を無条件で置けば、鍛えてきた側が並ぶ意味を失います。

そう考えると、条件を重くする作りに説明が付く。格上に勝てる道は残しつつ、無条件の逆転にはしていない、と読めます。制約と誓約の考え方とも同じ方向だ(→ 制約と誓約は念の交換レート)。

能力を一点に絞るほど強くなる、というメモリの考え方とも重なります。倒す手順を捨てて条件を外すことだけに振るのは、絞り方としては思い切った部類と言える(→ 念の「メモリ(容量)」が強さを決める)。

モラウとパリストンが示す、戦わない能力の幅

仮説がどこまで通るかは、離れたところにいる2人で確かめられる。

まずモラウ。紫煙拳は煙で人形を作り、その人形は殴れます。純粋に戦わない能力ではない。ところがレオル戦の決着は打撃ではなく、空気を二酸化炭素に置き換えて呼吸を奪うことでした(→ モラウの念能力は戦場ごと作り替える)。

吸える空気という、戦うための条件を外して勝っている。条件を奪う勝ち方は、戦闘向きの使い手も使うわけだ。

反対側の端にいるのがパリストン。念能力も系統も作中で一度も描かれず、動かすのは人と組織だけでした(→ パリストンの念能力が描かれない設計)。

2人と4つを分けているのは、外したあとに置くものを自前で持っているかどうか。モラウは煙人形を持ち、単独で完結する。メレオロンやゴレイヌは、味方の攻め手か自分の投球を後から用意していました。

もちろん、冨樫がこう設計したと語った場面はありません。ただ、4つがそろって体ではなく条件を奪っているのは、偶然にしては並びすぎている。戦わない能力は弱いから戦わないのではなく、勝ち方の置き場所が違うだけだと俺は見ています。

まとめ|戦わない念能力の勝ち方

  • シャルナーク・メレオロン・ゴレイヌ・シズクの能力は、相手のオーラを削る形になっていない
  • 奪っているのは相手の体ではなく、戦いが成立するための条件。主導権・狙う行為・その場にいること・血や痕跡
  • シズクだけは例外を持ち、パイク戦ではデメちゃん本体で殴って倒している
  • 条件を外したあとに何を置くかは使い手しだいで、同じ型でも結果が変わる
  • 発動の条件はどれも重い。決まれば即決になるぶん、決めるまでが難しく作られている

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