ミトは裁判でゴンの養育権を取りに行った|預けられた側ではない

ゴンが島を出る日、ミトは自分のついた嘘を訂正しています。ジンがゴンを捨てたのではない、自分が裁判で養育権を奪い取ったのだ、と。

この一言は、ジンを語るときによく使われる言い方と食い違う。ミトは預けられた側ではなく、取りに行った側でした。

原作でミトが何をしたのかを追いかけると、受け身の人物像はほとんど残りません。

※くじら島でのゴンとミトのやりとりと、天空闘技場編のあとの展開に触れます。

ミトは「ジンに預けられた人」として語られてきた

ジンへの批判でいちばん多く挙がるのが、この言い方です。くじら島で親戚のミトにゴンを預けたあと、父親としての役割を果たそうとしなかった。人物解説でもまとめでも、ほぼ同じ形で書かれている。

ジン側から見れば、そのとおりだ。ジンは12歳になる前にくじら島を出て、10年ほど戻らなかった。帰ってきたときには、まだ小さいゴンを連れていた。そしてまた島を離れています(→ ジン=フリークスは父親失格か)。

ただしこの説明のままだと、ミトは「渡された相手」の位置に固定される。渡す側の判断だけが話題になり、受け取った側が何をしたかは抜け落ちます。

ミトが裁判でゴンの養育権を奪い取った

抜け落ちた部分を、ミト本人が語っています。ジンが捨てたのではない。自分が裁判でゴンの養育権を奪い取った。

これは預けられた側の言い方ではない。裁判は、相手が渡すまいとしても取りに行くための手段です。ミトは自分から動いて、法の場でゴンを取った。

しかも当時、ミトの両親はすでに事故で亡くなっていた。ジンの父も漁に出たまま帰らず、島に残っていたのはばあちゃんだけ。人手も頼れる相手もいない家に、自分の子ではないゴンを引き受けにいったことになります。

「預けられた」と「奪い取った」では、誰が動いたかが正反対です。ジンを起点にしたときにだけ、ミトは受け身に見える。

なお、この場面を紹介する記事では「親権」と書かれることが多い。ただしミト自身の言葉は「養育権」のほうです。

ミトの嘘は2回に分けて明かされている

ミトが自分で決めたことは、これ1つではありません。次に見たいのが、ミトのついた嘘の扱い方だ。

ミトはゴンに「両親は事故で死んだ」と伝えていた。父親が生きていることを、長いあいだ隠していたことになります。ゴンがジンの生存を知ったのも、ミトの口からではなくカイトから聞かされたときだった。

その嘘は、2段階で明かされる。1段目はカイトから聞いたゴンに詰められた場面。ミトは父が生きていることを認めます。ただしこのときの言い方はジンがゴンを捨てたのだというものでした。

2段目が出発の日。ここでミトは、その言い方まで取り消しています。捨てられたのではなく、自分が裁判で奪い取ったのだと。

1段目は問い詰められての告白なので、隠していた側の対応です。ただ2段目は違う。誰かに追及された場面ではなく、自分に不利なほうを口にしている。言わずに済ませることもできた内容でした。

ミトが出したのは禁止ではなく期限つきの条件

3つ目が、ハンター試験への対応です。ミトはゴンがハンターになることを認めなかった。ゴンにジンと同じ生き方をさせたくない気持ちがあったと読める。

ただ、止め方に特徴があった。一方的に禁じるのではなく、期限つきの条件を出しています。沼の主を釣り上げられたら試験を受けてもいい、という約束です。

沼の主は、大人が5人がかりでも上がらなかった相手。条件としてはかなり重い。それでもゴンは何日もかけて、ようやく釣り上げた。

そのうえで、ミトはすぐには認めませんでした。願書への署名を渋っている。押し切ったのはゴンのほう。「約束は守るもの」と教えたのはミト自身だと言い返した。

つまりミトは、進んで送り出したわけではない。それでも最後に署名しています。自分の出した条件が、自分を縛った形です。

止めるだけなら、条件など出さず反対し続ければよかった。条件を出すというのは、満たされたら送り出さざるをえない状態を先に作るということ。署名を渋ったのは、その状態を自分で用意していたからだと読めます。

預かった箱を渡したのもミトだった

もう1つ短く触れておきたいのが、ジンが残した箱です。

箱はジンがゴンと一緒に置いていったもので、預かっていたのはミト。開けるにはハンターライセンスと念の両方が要る仕掛け。条件を決めたのはジンのほうです(中身と仕掛けは → ジン=フリークスは父親失格か)。

ゴンが試験を通り、天空闘技場で念を覚えて島へ帰ったとき、ミトは箱を渡した。渡さずに手元へ置き続けることもできた。

ミトは他人が決めた条件でも、満たされたらそのとおりに動く。沼の主のときと同じ形でした。

ミトを起点にすると、受け身の人物ではなくなる

ここまでの4つには共通点があります。どれもジンの行動を起点にすると、ミトが反応しただけに見える。

ジンが預けていった、ジンが会いに来なかった、ゴンがジンと同じ生き方をしようとした、ジンが条件を決めた。この順で読むかぎり、ミトは受け身のままです。

ミトを起点に並べ替えると、順番が変わる。裁判で取りに行き、詰められた先で自分の言い分まで取り消した。期限つきの条件を出して署名し、預かったものを渡した。先に決めているのは、どれもミトのほうです。

冨樫はミトに念も戦闘力も与えていません。ハンターですらない。それでもゴンの居場所と出発の時期を決めたのは、この人物だ。

力を持たない登場人物に、物語の始まりの判断をまるごと預けている。ゴンが島を出るかどうかは、最後までミト次第でした。

まとめ|ミトがゴンについて決めたこと

  • 「ジンが預けていった」で止めると、ミトは渡された側に固定される。ミト自身は、裁判でゴンの養育権を奪い取ったと口にしている
  • 養育権を取ったとき、ミトの両親はすでに亡くなっていて、島にはばあちゃんだけが残っていた
  • 両親が死んだという嘘をついたのは事実。ただし明かし方は2段階で、2段目は追及されていない場面での発言だった
  • ハンター試験には反対したが、禁じずに期限つきの条件を出し、渋りながらも最後は署名した
  • ジンが預けた箱も、条件が満たされた時点でミトが渡している

ミトは押しつけられた人ではありません。ゴンを取りに行くことも手放すことも、自分で選んでいます。念を使わない登場人物が、物語の始まりを決めていた。そこがこの人物の面白さです。

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