ブラックホエール号の殺人を捜査しているのはハンター協会|差は雇い主にある

カキン帝国の船で、カキンの国民が殺されている。それを調べているのは、カキンの正規軍ではありません。ハンター協会です。

差がついたのは権限ではない。誰にも雇われていないかどうかでした。

※王位継承戦編の展開に触れます(単行本既刊分と連載分)。

国王軍とハンター協会を同じ基準で比べる

比べる基準は3つ。どこまで入れるか、誰の指示で動くか、情報が集まるか。

船は5つの層で仕切られていて、層をまたぐには連絡通路を通るしかない(→ ブラックホエール号の内部は5階層)。事件を調べるのに必要なのは腕力ではない。現場に行けることと、話が上がってくることです。

基準 国王軍 ハンター協会
どこまで入れるか 各層の連絡通路を戒厳令に準じる水準で警備している 第1層の居住区の外に約150人が置かれている
誰の指示で動くか 割り振られた兵は王妃に、私設兵は王子に付く 増やした約150人は各王子の私設兵。捜査を率いるミザイストムはどの王子・王妃の陣営にも属さない
情報が集まるか 下の2層はほぼ無警備で、治安がマフィアに委ねられている 各層に人を置き、集めた話を突き合わせている

入れる範囲では、大きな差はつきません。分かれ目はその内側にありました。

ブラックホエール号を動き回れるのは軍のほう

移動の自由なら、むしろ軍が上だ。

連絡通路を押さえているのは国王軍。第2層と第3層のあいだは厚い壁で仕切られている。非常時にその壁を開けられるのは、第2層の側だけです。

つまり、層をまたぐかどうかを決めているのは軍のほう。協会はその決定を受ける側にいる。

現場に行く力だけを見れば、国王軍が有利です。それでも捜査は協会に寄っている。理由は残り2つの基準にありました。

船の中で誰にも雇われていない人はごく少ない

差がはっきり出るのが「誰の指示で動くか」だ。

船の警備と継承戦の監視を担うのは国王軍。ただし、そこから割り振られた兵は王妃に所属します。王妃が自分で集めた人たちではなく、国王軍の中から回された兵だ。上位の王妃は、自分より下の王妃に監視役を付けることもできる。

王子に付く私設兵はまた別です。上位の王子は自分で兵を集めていて、下位の王子はそれがないぶんプロハンターを雇っている(→ 王位継承戦の14王子は母の序列で読む)。

継承戦は、王子どうしが殺し合って最後の1人を決める仕組み(→ 王位継承戦で王子は自分では戦えない)。カキンの兵は全員、どこかの陣営に属する立場で乗っています。

協会の側も潔白ではありません。第1層の居住区の外に置かれた約150人は、暗黒大陸へ渡っているあいだだけ有効な資格の持ち主。ハンター十ヶ条を書き換えずに済むよう、第2条へ副項目として足された枠です。

狙いははっきりしている。第1層を守る兵にハンター試験を受けさせ、王子の暗殺を狙う者が混じっていないかを見極める。通った者だけを中立の立場のカキン兵として第1層に置く。

ところが実態は違った。中立という名前が付いただけで、彼らは各王子の私設兵のままです。居住区の外を警備するという名目で出入りもしている。

作中でも批判が出ています。パリストンは、V5と決別してでも先回りするのが本来の協会だろうと言い、この判断を切り捨てた。クラピカも、不確定要素を増やして想定外を招く確率を上げたと指摘している。

残るのは、協会から乗り込んだ十二支んのうち、どの陣営にも入っていない人たちだけだ。同じ十二支んでも、クラピカは第14王子の護衛としてオイト王妃に雇われている側。捜査を率いるミザイストムのように、誰にも雇われていない人間は、この船にほとんどいません。

ブラックホエール号の捜査を支えているのは情報の集まり方

3つ目の基準は、2つ目の結果としてついてきます。

船は層で分断されていて、下へ行くほど治安が悪い。第3層ではマフィアの抗争が起きています。エイ=イ一家のモレナが、感染させた組員を使って無差別の殺人を始めた(→ モレナの念能力“恋のエチュード”が念使いを増やす仕組み)。

そのさらに下は、警備がほとんど置かれていない。第4層と第5層の治安は、事実上マフィアに委ねられています。現場を見ている人が軍の側にいないので、拾える話もそこで途切れる。

対して十二支んは、各層に人を配り、集めた話を突き合わせています。誰の陣営にも属していないから、どの層の話も同じ重さで扱える。陣営に属した兵なら、自分の主に不利な報告は上げにくい。

ミザイストム=ナナが特別捜査権を持つ二ツ星の犯罪ハンターで、弁護士でもあるのはここで効きます。証拠と証言を突き合わせ、事件の全体像を組み立てられる人物だ。

軍がまったく動かないわけでもない。ミザイストムの要請を受けて、第3層で乗客のIDを一斉に確認する動きも出ています。少なくともこの一件では、人数を出したのは軍で、何を確認するか決めたのは協会でした。

ミザイストムが動けて国王軍が動けない理由

ここまでを合わせると、船の中の捜査が奇妙な形になっているのが分かる。

法的な力を持っているのはカキンです。船はカキンの国王が暗黒大陸へ渡るために作らせたもので、乗客の大半もカキンの国民。取り締まる権限は本来そこにあります。

協会が船内で動けるのは、カキン側と交わした取り決めがあるからだ。V5の側の監視役として乗り込み、船内の治安維持や負傷者の治療も担う立場にある。ただしミザイストム個人の特別捜査権が、カキンの船の中でどこまで通用するかは分かりません。作中ではっきり示されてはいない。

それでも調べているのは協会のほう。取り締まる力は陣営に縛られた側にあり、縛られていない側にその力がない。2つが別々の組織に分かれてしまっている。

冨樫がうまいのは、どちらか一方を潔白な側にしなかったところだと思う。カキンの兵は最初から中立でなく、協会も中立の枠を作りそこねた。それでも事件は調べられていきます。

俺は、この形が継承戦の窮屈さをそのまま表していると読んでいる。誰も外側に立てない場所で、いちばん外側に近い人だけが動いている。

同じことがクラピカにも起きています。第14王子の護衛と緋の眼の回収を同時に抱えたまま、各王子の関係者を集めた念の講習まで自分で開いている(→ クラピカの念能力は“二段構え”)。動ける人へ仕事が寄っていく点だけは、協会の置かれ方と重なります。

まとめ|ブラックホエール号の事件を捜査しているのは誰か

  • どこまで入れるかでは軍が上で、連絡通路も壁の開閉も国王軍が握っている
  • 誰の指示で動くかで差がつき、カキンの兵は全員どこかの陣営に属している
  • 協会が用意した中立の枠に入った約150人も、実態は各王子の私設兵だった
  • どの陣営にも入っていないミザイストムのもとに、各層の話が集まっている
  • ミザイストムの要請で軍が動いた一件では、人数は軍が出し、使い道は協会が決めた

取り締まる力を持つ側が動けず、動ける側にその力がない。その隙間で捜査が続いています。

関連記事:

コメント

タイトルとURLをコピーしました