アベンガネに、派手な戦闘シーンは1つもありません。それでも、あのヒソカが探し出し、幻影旅団の団長が復活を託した。理由はただ1つ、他人の念を消せる「除念師」だからです。
ただし、この能力には重い支払いが付いてきます。消した念は消滅せず、念獣の姿になってアベンガネ自身にまとわりつき続ける。他人の呪いを引き受けて、自分で飼い続ける能力です。彼が何を差し出して、何を受け取っているのか。その釣り合いに、除念師の強さの正体があります。
※この記事はグリードアイランド編(アベンガネの登場する15〜18巻)と、クロロの念の復活に関わる範囲(34巻)の内容に触れます。
アベンガネとは——戦わずに生き残った除念師
アベンガネは、大富豪バッテラに雇われてグリードアイランドに入ったプレイヤーの1人。ゲームクリアを狙う大所帯の同盟に加わっていた、脇役中の脇役です。
その同盟は、内部に潜んでいたゲンスルーに壊滅させられます。メンバーの体には爆弾の念「命の音(カウントダウン)」が仕掛けられ、多くの仲間が命を落とした。生き残った数少ない例外がアベンガネです。
彼は「爆弾を一斉解除する」というゲンスルーの言葉を信じませんでした。むしろ一斉起爆を読み、先回りして自分の爆弾を除念していた。戦闘力ではなく、読みと技術で死の罠から抜け出しています。
除念とは、他人がかけた念を解除する技術のこと。作中で使い手はごくわずかしか登場せず、念能力の中でも特に希少とされています。
除念の仕組みと、消えない念獣
アベンガネの除念は、森の中で行う儀式から始まります。森の生き物たちのオーラと自分の念を合わせ、念を喰う念獣を具現化する。この念獣が対象の念を喰えば、除念は完了です。
問題は、喰われた念の行き先です。念はこの世から消えたわけではありません。念獣はそのままアベンガネのそばに残り、まとわりついて離れない。カウントダウンを喰った念獣は大きく醜い姿で、彼に甘えるようにへばりついていました。
この念獣が消える条件は2つだけ。元の術者が死ぬか、その念にもともと設定されていた解除条件が満たされるか。どちらかが起きるまで、アベンガネは消した念と暮らし続けることになります。
腕前も一級品です。「冨樫義博展 -PUZZLE-」で公開された念能力の設定資料では、アベンガネは具現化系。系統の修練度は最高評価の「極」と示されています。除念はまぐれ当たりの小技ではなく、才能を注ぎ切った本業ということです。
アベンガネが背負うものと、手にするもの
アベンガネの取引を一度整理します。
| 差し出すもの | 受け取るもの |
|---|---|
| 消した念を念獣として引き受け、そばに置き続ける | 他人には消せない念を消せる技術 |
| いつ終わるか分からない念獣との同居 | 除念師という希少な立場と、それに見合う報酬 |
| 森での儀式にかかる時間と手間 | 戦わずに強者と対等に取引できる安全 |
注目したいのは、支払いのタイミングです。ほとんどの念能力は、使う瞬間にオーラや制約を支払います。アベンガネは違う。除念が終わった後も、念獣という形で払い続ける。しかも、支払いが終わる日は決まっていません。
その代わり、受け取るものは大きい。念の世界では、かけられた呪いを消す手段がほとんどありません。だからこそ「消せる」の一点だけで、作中最強クラスの人間たちも彼を頼るしかなくなる。
カウントダウンを消した場面——命と引き換えに始まった同居
自分への除念は、この取引の分かりやすい実例です。
同盟が崩壊する場面で、アベンガネの体にもカウントダウンは仕掛けられていました。放っておけば爆死、ゲンスルーの言う「解除」を待っても一斉起爆。詰みかけた状況で、彼は森にこもって儀式を行い、爆弾を念獣に喰わせます。
この場面で受け取ったものは、命そのものです。同盟の仲間が次々と爆死する中、除念できた彼だけが自力で罠の外に出た。ゲンスルーの能力の詳細はゲンスルーの念能力を整理した記事で扱っています。カウントダウンは本来、術者を捕まえない限り外せない設計です。それを一人で外せる時点で、除念の異常な価値が分かります。
一方で差し出したものが、あの醜い念獣との生活です。カウントダウンの解除条件は「ゲンスルーを捕まえて『ボマー捕まえた』と言う」こと。ゲンスルーは敗北後も治療されて生きたまま退場しています(その後の消息は描かれていません)。彼が死なず、条件も別途満たされていない限り、あの念獣は今もそばにいる計算になります。命の代金としては安いのか高いのか、簡単には言えない重さです。
クロロの除念が「終わりの見えない支払い」になる理由
もう1つの実例が、団長クロロの除念です。
クロロはクラピカに「律する小指の鎖」を打ち込まれ、念能力の使用と旅団への連絡を封じられていました。この鎖の仕組みはクラピカの念能力の記事で詳しく扱っています。
旅団はグリードアイランドで除念師を探し、ヒソカがアベンガネと接触。除念の場面そのものは描かれていません。ただ、ヒソカがアベンガネをクロロの元へ連れて行く様子は扉絵で確認できます。
そして後のヒソカ戦で、クロロの念は完全に戻っていた。アベンガネが仕事を果たしたと見るのが自然です。
このときの報酬は作中で明かされていません。ただ、差し出す側の重さから逆算はできます。クラピカの鎖に、第三者が満たせる解除条件は示されていない。もしあの鎖を喰った念獣が残っているなら、消える当てはクラピカの死くらいしかないことになります。
つまりアベンガネは、いつ終わるとも知れない同居を1件、追加で引き受けた可能性が高い。除念の報酬が高額になる理由は、技術の希少さだけではなく、この背負い込みの重さにあると俺は見ています。
除念の強さの正体は、引き受ける覚悟にある
ここまでを踏まえると、アベンガネの強さの正体が見えてきます。
念の世界では、強い想いを乗せた念ほど簡単には消えません。死後も残って強まる念すらある。この仕組みは死後の念を扱った記事で整理したとおりで、だからこそ念の呪いは一級の武器になります。クラピカの鎖が団長を長いあいだ縛れたのも、この「消せない」が前提にあるからです。
アベンガネは、その前提を一人だけ破れる。しかも仕組みが上手い。念を力ずくで消すのではなく、喰った念獣ごと自分が引き受ける。呪いを消すのではなく、呪いの置き場所を自分に移す能力と言えます。
強さの根拠が出力ではない、という点が重要です。ヒソカのように攻防の駆け引きで勝つわけでも、ゲンスルーのように火力で脅すわけでもない。誰も引き受けたがらないリスクを引き受けられること自体が、彼の強みになっています。
弱点も同じ場所にあります。除念を重ねるほど、そばに置く念獣は増えていくはずです。この能力で稼ぎ続ける人生は、他人の呪いの保管庫になっていく人生でもある。安売りできない理由は、ここにもあります。
残された伏線——除念師はどこへ消えたか
クロロの復活以降、アベンガネは一度も登場していません。
ファンの間では、そのまま幻影旅団に勧誘された説や、口封じに始末された説が語られています。どちらも原作に描写はなく、今はあくまで想像です。ただ、旅団側もヒソカ側も、除念師をそのまま自由にさせておくとは考えにくい。再登場の余地は十分に残っています。
もう1つ気になるのは、クラピカ側から見た構図です。もしアベンガネがあの鎖の念獣を連れたままなら、クラピカの念は今もどこかで「飼われて」いることになる。本人の知らないところで、自分の呪いが生き続けているわけです。この設定が暗黒大陸編で拾われたら、と考えたくなる伏線です。
まとめ
- アベンガネの除念は、森の儀式で具現化した念獣に他人の念を喰わせる能力。喰った念獣は術者の死か本来の解除条件まで消えず、彼にまとわりつき続ける
- 差し出すものは「消した念との終わりの見えない同居」、受け取るものは「作中屈指の希少技術と、それに見合う報酬・立場」
- カウントダウンからの生還では命を受け取った代わりに、重い念獣との同居が始まった。クロロの鎖の除念でも、終わりの見えない同居を追加で引き受けたとみられる
- 強さの正体は出力ではなく、誰も引き受けないリスクを引き受けられること。除念師の価値は「消せない」が前提の念世界だから成立する
- クロロ除念後の消息は不明。旅団入りや口封じはファンの説で、原作では再登場の余地が残されている
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