念能力は普通、何年もの修行か、命がけの覚醒でようやく身につくもの。それを王位継承戦のモレナ=プルードは、キス1つで他人に「感染」させて量産しています。能力の名前は「恋のエチュード(サイキンオセン)」です。
面白いのは、同じブラックホエール号の上で、第14王子ワブルを守るクラピカも念使いを急いで増やしている点です。やり方は講習会。同じ「念を広める」でも、モレナの感染とクラピカの教育では狙いが正反対になります。
※この記事は王位継承戦(暗黒大陸編)の展開に触れます。未読の方は注意してください。
モレナとクラピカを「念使いの増やし方」で比べる
今回は強さの話ではありません。2人が同時にやっている「念を広める」という行為について比べます。
普通の念能力は、身につくまでに時間も覚悟も要ります。それを2人は、まったく違うやり方で短期間に量産している。だからこそ、その差がそのまま考え方の違いになります。
比べる基準は、この4つです。
- どうやって増やすか(手段)
- 何のために増やすか(目的)
- 増えた力をどこへ向けるか
- 増殖をどう制御するか
入り口の「感染」と「教育」という違いだけでなく、その奥にある設計思想まで見えてきます。
まず2人の“増やす仕組み”を押さえる
モレナの「恋のエチュード(サイキンオセン)」
モレナの念能力は特質系です。自分の唾液を介して、相手を「発症者」に変えます。キスなどで唾液が移ると、相手はその場で念能力者になる。
感染させられる人数は、自分を含めて23人まで。発症者は他人を殺すたびにレベルが上がり、レベルに比例してオーラの量も増えていきます。
殺した相手の価値はモレナが決めます。一般人は1、念能力者は10、王子は50。レベルが20を超えると発症者は独自の発を手に入れ、100に達すると今度は自分が新たな感染源になって、さらに感染を広げられる。放っておけば念使いが次々に増えていく仕掛けです。
クラピカの念講習会
一方のクラピカは、第14王子ワブルの警護役です。各王子の警護兵を集めて、「誰でもおよそ2週間で念の基礎を使えるようにする」講習会を開いています。
狙いは数を揃えること自体ではありません。念の知識を全陣営に分け隔てなく配り、お互いがうかつに手を出せない膠着状態を作ること。警護兵が念を覚えれば守護霊獣も見えるようになり、迂闊な暗殺が割に合わなくなります。
同じ基準で比較する
4つの基準で比べるとこうなります。
| 基準 | モレナ(恋のエチュード) | クラピカ(念講習会) |
|---|---|---|
| 増やす手段 | 唾液による感染 | 約2週間の講習で教育 |
| 増やす目的 | 自分の戦力・破壊衝動 | 抑止・膠着状態づくり |
| 増えた力の向き | 殺すほど強くなる | 互いに手を出させない |
| 増殖の制御 | モレナが価値を決める中央集権 | 知識を配って各自に委ねる |
増やすという行為は同じでも、4つすべてで向きが逆になっています。差が大きい3点を順に見ていきます。
差が出た点①:殺人を“燃料”にするか、止めるか
いちばん大きく分かれるのは、増えた力をどこへ向けるかです。
モレナの発症者は、人を殺すほど強くなります。殺人がそのままレベルアップの条件で、王子を1人殺せば一気に50も伸びる。力を伸ばすことと人を殺すことが、完全に重なっています。だから発症者は自分から殺しに動きます。
クラピカの講習はその逆です。全員が念を覚えて守護霊獣を見られるようになると、誰も迂闊には動けません。力を配ることで、かえって手出しを止めにいく。同じ「念を広める」でも、片方は殺し合いを加速させ、もう片方は殺し合いを止めるために働きます。
差が出た点②:本人が増殖装置か、知識の配り手か
増やし方の構造も対照的です。
モレナの場合、増殖の起点はあくまで本人の体になります。誰を感染させるか、どの殺害に何点を与えるかも、すべてモレナが決める。発症者がレベル100で新たな感染源になっても、元をたどればモレナ1人から枝分かれした網です。本人が消えても感染は残りますが、ルールを握っているのは終始モレナだけ。
クラピカは知識を配るだけです。基礎を渡したあとは、覚えた警護兵がそれぞれの王子のために自分の判断で動きます。クラピカに従わせるための力ではなく、各陣営が自分の身を守るための力。配ったら手元から離れていく作りになっています。
差が出た点③:暴走を前提にするか、均衡を狙うか
制御の考え方も真逆です。
恋のエチュードは、増え続けること自体が目的に見えます。殺せば伸び、伸びれば新たな感染源が生まれる。描かれている範囲では、増殖に歯止めをかける仕組みが見当たりません。船全体を混乱に巻き込むための、上限のない仕掛けです。モレナの「すべてを壊したい」という破壊衝動と、この上限なく増える形はよく重なります。
クラピカの講習は、均衡そのものが狙いです。力の差をならして、誰も動けない状態を作る。増やしているのに、結果として場を固定させようとしている。同じ「念を増やす」でも、モレナは増殖を暴走させ、クラピカは増殖で均衡を作る。狙う状況が正反対です。
なぜ正反対になったのか
ここまで全部逆になるのは、2人が念に求めているものが根本から違うからだと俺は考えています。
モレナにとって念は、世界を壊すための道具です。だから「殺すほど増える」という、暴力と直結した仕組みになる。能力の形が、そのまま本人の願望の形をしています。冨樫の能力にはキャラの内面がそのままルールに表れる例が多く、恋のエチュードも破壊衝動を「際限なく広がる感染」に置き換えた能力だと俺は読んでいます。
クラピカにとって念は、守るための知恵です。ワブルとオイトを生かすために、場の均衡を作りにいく。だから力を独占せず、あえて全員に配って手出しを封じます。壊すために増やすモレナと、守るために増やすクラピカ。王位継承戦という1つの舞台に、念の使い方の両極が同時に置かれています。
念の系統そのものを整理したい人は念能力の六系統とは?水見式・六性図でわかる主要キャラの系統も合わせてどうぞ。特質系の位置づけが分かると、モレナの能力の異質さがより見えてきます。
まとめ
- モレナの念能力「恋のエチュード(サイキンオセン)」は特質系で、唾液で相手を発症者に変え、自分を含め23人まで感染させる
- 発症者は殺害でレベルが上がり、一般人1・能力者10・王子50。レベル100で新たな感染源になり、念使いが連鎖的に増える
- 同じ船でクラピカも「およそ2週間の念講習」で念使いを増やしているが、狙いは抑止と膠着で、向きが正反対
- モレナは殺人を燃料に増殖させ、クラピカは力を配って均衡を作る。壊すための念と、守るための念の対比になっている
- 能力のルールに本人の願望が表れるのは冨樫の作品に多いパターンで、恋のエチュードは破壊衝動を「際限なく広がる感染」に重ねた能力と読める
クラピカ側の念の組み立てを詳しく見たい人はクラピカの念能力は“二段構え”|5本の鎖と絶対時間が生む強さへ。王位継承戦が起きている暗黒大陸そのものの危うさは暗黒大陸の五大厄災は“恵み”が罠|危険度ランクで見落とす本当の怖さで掘り下げています。

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