シズクの念能力デメちゃんは、敵を倒すために作られていない|旅団の後始末役

シズク=ムラサキの念能力「デメちゃん」には、生き物と念で作られた物は吸えない、という妙な制約があります。何でも吸い込む掃除機を作っておきながら、吸えない物をわざわざ増やしている。武器として尖らせたいなら、こんな制約はいらないはずです。

それでも、この制約は能力にそのまま残されている。ここに能力の性格が出ているのではないか、と俺は考えています。

デメちゃんは敵を倒すための能力ではなく、盗賊集団である幻影旅団に必要な「後始末・痕跡消し」を担う裏方のインフラなのではないか。ヨークシンとキメラアント編の現場を並べると、この見方が浮かんできます。強さの順位とは別の角度から、デメちゃんを読み直してみます。

※ この記事はヨークシン編(幻影旅団とクラピカの対決周辺)と、キメラアント編の一部描写に触れます。単行本既刊の内容を前提にしています。

シズクの念能力「デメちゃん」はどんな能力か

まず能力の中身を整理します。シズクは具現化系の念能力者で、デメちゃんはその具現化で作り出す掃除機。

デメちゃんでできることは、おおまかに次のとおり。

  • 吸い込む: 念じた物を吸い込む。離れた物も引き寄せ、本体の大きさをはるかに超える量を呑み込める
  • 吐き出す: ただし吐き出せるのは、最後に吸い込んだ1つだけ。それ以外がどこへ行くかはシズク本人も分からない
  • 殴る: 戦闘では、具現化したデメちゃん本体で相手を殴る

吸い込む量がほぼ無制限なので、収納や運搬の用途では強みが大きい。ただ、戦う技としては殴打が中心で、これといった攻撃の射程や仕掛けがあるわけではありません。

そしてデメちゃんには、はっきりした制約があります。

デメちゃんが吸えない物に、設計の意図が出ている

デメちゃんは何でも吸えるわけではありません。吸えない物が2つあります。

  • 生きている物: シズクが「生き物」と認識している物は吸えない
  • 念で作られた物: 他人の念で作られた物も吸えない

この2つが、能力の性格を決めています。

念で作られた物が吸えない、という制約は一見すると欠点に見える。でも見方を変えると、罠を見抜く手がかりにもなりうる。吸おうとして吸えなければ、それは念で作られた物、つまり仕掛けかもしれないと判断できる。盗みの現場で念のトラップを避けるための材料にもなる、地味だが応用の利く制約です。

生き物が吸えない、という制約も同じ向きを指している。デメちゃんは敵そのものを呑み込んで終わらせる能力ではない。生きた相手に対しては、吸引はほぼ効かない。

ここで一つ気づくことがあります。吸えない物の置き方が、どちらも「戦闘で敵を直接倒す」方向を避けている。デメちゃんは敵を呑み込んで終わらせる決定打にはなっていない、と読めます。その代わりに何をさせているのか。ヨークシンの現場が答えになります。

ヨークシンの現場処理が、役割をはっきり見せる

ヨークシンでのオークション襲撃のあと、会場には大量の死体が残ります。フランクリンが撃ち倒した人々の死体です。

この後始末をしたのがシズクでした。デメちゃんで死体の山をまるごと吸い込み、現場を片づけている。

血についても吸える。血は生き物そのものではないため、デメちゃんの対象になります。実際、のちのキメラアント編では、シズクが敵の体の血を吸い尽くす場面が描かれている。血まで吸い取れるなら、そこで何があったかという痕跡を消すのにも使える。戦闘の跡を丸ごと処理できる役回りです。

ここまで見ると、デメちゃんの制約の意味が変わって見えてきます。

  • 生き物は吸えない: だから戦いの「最中」には決定打にならない
  • 死体や血は吸える: だから戦いの「あと」の処理にはよく向く

つまりデメちゃんは、戦闘そのものより、戦闘が終わった「あと」に向いている。盗賊集団が現場に残す証拠を消す役割と、よく噛み合います。

「後始末のインフラ」という仮説を、別の場面で確かめる

後始末役という見方は、死体処理だけで決めると一場面の思い込みになりかねない。別の使い方を見ても、同じ方向を指しています。

デメちゃんは、生きた体から異物を抜くこともできます。ヨークシンでは、捕らえたウボォーギンを生かしておくために、その体内に入った毒や神経ガスをデメちゃんで吸い出しています。体そのものは生き物だから吸えないが、後から入り込んだ異物は別、という線引き。

これも方向は同じ。敵を倒すためではなく、対象の体や現場に残った余計な物を取り除くための使い方です。

罠の手がかり、死体と血の回収、体内の異物除去。並べると、どれも盗みという仕事の前後を支える働きをしている。攻撃の能力というより、盗賊集団が動き続けるための裏方のインフラに見えてきます。

幻影旅団には、純粋な戦闘力で押すウボォーギンのような団員がいます。前に出て敵を倒す役がいるなら、その戦いの後始末と痕跡消しを引き受ける役も要る。デメちゃんは、その後者を埋めるために置かれたのではないか。俺はそう読んでいます。

同じ具現化系でも、向いている先がまるで違う

デメちゃんの設計は、同じ系統の能力者と比べるとさらにはっきりします。

クラピカも具現化系で、鎖という具体物を作り出すタイプ。ただしクラピカの鎖は、旅団を縛り上げ、心臓を握るための戦う道具として徹底的に設計されています。同じ「物を具現化する」系統でも、向いている先がまるで違う。

冨樫は能力の系統だけでなく、その能力に「物語の中で何をさせるか」まで考えて作っているように見えます。たとえばネフェルピトーの念も、攻撃技ではなく索敵や治療に振られている。能力を強さの数値ではなく役割で設計するやり方は、シズクだけの話ではなさそうです。

デメちゃんの場合、その役割は「後始末・痕跡消し」だったと読める。だから生き物が吸えなくても、戦闘で押し負けても、能力としては破綻していない。最初から、敵を倒すための能力ではないからです。

シズク本人の性格も、役割と噛み合っている

能力だけでなく、シズクの描かれ方も役割と噛み合っています。

シズクは落ち着いた判断ができる一方で、一度忘れた物事は二度と思い出せない、という変わった一面を持つ天然な性格として描かれています。

派手な戦闘で前に出るより、淡々と現場を片づける裏方。その立ち位置に、この性格はよくはまる。能力と人物像が同じ方向を向いているのも、後始末役として置かれたキャラだと考えると筋が通ります。

まとめ

  • シズク=ムラサキの念能力デメちゃんは、具現化系で作り出す掃除機型の能力。生き物と念で作られた物は吸えない、という制約を持つ
  • この制約は、罠の感知に使える一方、生きた敵を呑み込む決定打にはならない。戦闘の「最中」より「あと」に向いている
  • ヨークシンでは、フランクリンが倒した大量の死体をデメちゃんで吸って痕跡を片づけ、捕らえたウボォーギンの体内の毒・ガスも吸い出した。血も吸えるため、戦闘の跡の処理に向く
  • これらを並べると、デメちゃんは敵を倒す能力ではなく、盗賊集団である幻影旅団の「後始末・痕跡消し」を担うインフラとして設計されている、と読める(断定ではなく根拠に基づく仮説)
  • 同じ具現化系でも、戦う道具として鎖を作ったクラピカとは向いている先が違う。能力を役割で設計するやり方は、攻撃へ特化していないネフェルピトーの設計とも重なる

念の六系統を「強さ」ではなく「役割」で見直すと、戦わない能力にも置かれた意味が見えてきます。

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